2017 Fiscal Year Annual Research Report
ポストコロニアリズムと国民文学論からみるグルジア近代文学研究
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16J09392
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五月女 颯 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | グルジア(ジョージア)文学 / ポストコロニアリズム / エコクリティシズム / 動物論 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度より継続的して、グルジア(ジョージア)の近代文学における中心的な作家イリア・チャウチャワゼの作品の分析に取り組んだ。19世紀初頭以来続くロシアによるジョージアの植民地化という社会的背景や、その一方で彼が留学し親しんだロシア文学というコンテクストなどを考慮に入れることで、作家がその植民地状況に対する態度や、そこからのジョージアの解放に向けた戦略を、パロディやアイロニーといった文学的修辞によって自身の作品の中で表現していることが明らかとなった。これに関連する研究成果を、グルジア語論文として発表した。 また同様に、彼の親世代にあたるグルジアのロマン主義者たちに対しても、彼は植民地主義に対抗する観点から肯定・否定の両義的な態度をとっている。このことに関しては、9月にグルジア・文学研究所主催の国際学会において口頭発表し、また同時に研究者らから適切な助言を受けた。 並行して、チャウチャワゼと同時代の詩人ヴァジャ=プシャヴェラの研究も行っている。前者が啓蒙や教育、科学といった西欧近代を志向しまたそれを利用することで植民地主義への抵抗を試み、またそうした態度を作品に表したのに対して、後者はそれとは異なり、生まれ育ち、また留学からの帰国後にも住み続けた山間部に伝わる神話やフォークロアを題材として作品を創作した。前者が西欧近代とグルジアの架け橋のような役割があるとするならば、後者はグルジアに土着の文化の表現者であるということができるかもしれない。このような観点から、環境批評や動物論、ポストコロニアル・エコクリティシズムなどの批評理論を応用して、ヴァジャ=プシャヴェラの作品の分析・批評を試みている。この研究成果の一部は6月に国際学会で口頭発表し、またグルジア語論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イリア・チャウチャワゼの文学作品のポストコロニアル的分析は、昨年度より継続的に取り組んできた研究課題である。研究指導委託制度等を利用し効果的に資料を収集し、新たな研究成果を盛り込みつつグルジア語論文として発表することができた。 また本年度は、ヴァジャ=プシャヴェラ研究にも着手し、6月には口頭発表の形で研究成果の一部を発表し、適切な助言を受けた。これを踏まえて研究を継続した成果として、グルジア語論文を執筆し、現在グルジアの学術雑誌に投稿中である。 この他にも9月の国際学会で口頭発表をするなど、学会発表・論文ともに「おおむね順調に進捗している」と言うに足るものであると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度もヴァジャ=プシャヴェラの著作について、国民文学やポストコロニアリズム、エコクリティシズム、動物論といった観点から論じていきたい。特にエコクリティシズムや動物論といった批評理論は比較的新しい分野であるため、国内外問わず積極的な学会発表を行い研究者らと討議することが必要であると考える。学会発表を基にし、研究を深化させ、学会誌への論文投稿を進めていきたい。 また、必要に応じてグルジア等海外での資料収集も行う。
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