2017 Fiscal Year Annual Research Report
エマニュエル・レヴィナスの「エロス」概念についての研究
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16J09594
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小林 嶺 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 哲学 / フランス現代思想 / 他者 / エロス / レヴィナス |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、エマニュエル・レヴィナスの「エロス」概念についての研究を行った。本年度は、とりわけ1930年代から1950年代までのテクストについて集中的に取り組んだ。レヴィナスが「エロス」概念をその公刊されたテクストのうちで提示するようになるのは『実存から実存者へ』(1947)および『時間と他なるもの』(1948)といった戦後まもない著作においてである。この「エロス」という戦略素がレヴィナスの思想変遷のうちで占める役割を明らかにすることが本研究の目的であるが、本年度は、レヴィナスが自らの独自の思想を展開し始める戦前のテクスト『逃走について』(1935)および遺稿を含む『著作集』(2009-)に収められた諸々のテクストとの関連のうちで、「エロス」概念が果たす役割を通時的な仕方で分析した。その結果、レヴィナスは1940年代にかけて完成させた「エロス」論を乗り越えるべく導入した「教え」概念を、他人の倫理的現前として『全体性と無限』のうちで精緻化する一方で、主体を一元性の軛から解放する戦略素としての「エロス」概念をなおも保持することで、ある種の理論的撞着に陥っているという仮説的な結論を得た。こうした点をさらに厳密に検討することが次年度以降の課題となる。本年度の研究成果としての、初期テクストの通時的読解によって、「エロス」概念の理論的変遷を、レヴィナス中期以降の書著作との異同のうちで厳密に論じることが可能なった。このことはまた、『全体性と無限』における、言語的関係を基礎とする他人の倫理的現前と、非-意味や隠蔽を特徴とする女性的なものとのエロス的関係という二つの他者像の関係性についての分析を問い直すための理論的基礎を与えるものである。これらの研究成果を論文「エロスから発話へ?──レヴィナスにおける初期エロス論の展開1935-1950」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内での研究活動を重点的に行ったため、予定されていた海外渡航による資料収集が出来なかったが、これによる研究の遅延は見られず、来年度に向けた充分な研究成果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに引き続き、文献読解による研究を進める。今年度はレヴィナス中期の主著『全体性と無限』(1961)の読解を中心に研究を行なう。わけても、1950年代に準備された「教え」や「顔」といった他者の倫理的現前に関わる概念と「エロス」概念の関係性を取り扱うことによって、既往の研究では十分に究明されたとは言い難い第4部B「エロスの現象学」の意義を明確な仕方で示すことが主たる目的となる。また、さらに発展的な研究課題として、これまでの研究成果を基に『存在するのは別の仕方で』(1974)をはじめとする後期の諸テクストを検討することで、レヴィナスにおける倫理-政治的な主題を検討する。以上のような指針のもと、レヴィナスの「エロス」概念を蝶番として、「主体性」や「歓待」、「正義」といったより大局的な視点から枢要なものと見なしうる諸概念が取り結ぶ布置を独自な仕方で示す。
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