2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J09695
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福田 真人 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 明治維新 / 貨幣 / 貨幣貿易 / 小額貨幣 / 金融政策 / 金本位制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年の主な実績は①明治維新期の関税制度及びそれに関連する諸経済政策の解明、②明治維新後の銭貨貿易と外交問題の分析、③幕末の物価に関する調査の3点である。 第1の実績では、幕末の外交文書や公文録・大隈文書などを用いて、不平等条約と当時の貨幣制度に起因する、先行研究では明らかにされていない特殊な関税状況が存在したことを解明した。一分銀・洋銀の価格差を利用し、実効税率の削減を図る外商とそれに対抗する日本側の主張を分析した。また、そこから敷衍した当時の経済政策の特性について論じ、大隈財政が金貨の価値基準化に腐心していたと主張した。以上の成果は2016年度政治経済学・経済史学会秋季学術大会において発表を行った。 第2の実績においては、明治期の財政史料や外交史料・貿易統計などを用いて、明治期以降の銅銭の国際的流通及び政策的対応を分析した。幕末以来外交的懸念であった銅銭貿易は、明治期以降も維新政府が抑制を図ったが、銅銭輸出入を志向する外商との対立を生んだ。特に長崎では、中国と銅銭流通の共通化が進行し、深刻な問題となったのである。また先行研究で指摘されていた銅銭輸出許可の性格についても新たな理解を提示した。こうした成果は次年度に学会発表として整理する予定である。 第3の実績については、横須賀の物価史料を利用して、先行研究より詳細な幕末の物価系列を作成した。同時に日記や風説類から物価についての言説を蒐集し、同時代的なインフレに対する認識に迫り、物価高騰の理由について考察した。以上の分析から最幕末に特に急速に進行したインフレの一因として、銭貨価格の改定が重要であったと指摘した。こうした成果は第2の実績と同様に次年度に学会発表として公表する予定である。 以上3点の実績を整理したが、まだ刊行論文に纏めることができていないため、次年度にはこうした業績を論文として文章化し、査読雑誌に投稿していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DC1採用初年度であった本年度はいくつかの実証研究を行って、次年度以降への基礎的蓄積を形成することができた。DC1初年度の研究成果としてはおおむね想定通り進捗したと評価できる。本研究の主な視角は、交付申請書にもある通り、①国際貨幣市場と国内貨幣市場の連関、②小額貨幣への着目、③貨幣間関係の解明であったが、それぞれに進捗が見られた。 ①については明治維新期の関税制度の研究をケーススタディとして、国内外の貨幣制度の差違とそれへの政策的対応を明らかにした。また明治初期の銭貨に関わる外交問題の解明も、銭貨流通が東アジア圏で共通化していたことなどを明らかにすることができた。こうした研究は、貨幣制度の差違を利用あるいは悪用する外商と、それへの対応に苦慮する政府という関係が一般的にみられるという含意を持っている。こうした議論は明治維新史の古典的論点である「外圧」研究にとっても重要な意義を持つと評価できる。 ②については、従来解明されていなかった、明治初期の銭貨流通を明らかにすることに奏功し、実証的に重要な成果を挙げることができた。また理論的にも今年の研究から新たな小額貨幣研究の論点と意義を提示できた。従来Thomas J. Sargentや岩橋勝らによって小額貨幣の理論的重要性は指摘されてきたものの、小額貨幣と物価との連関という本研究が提示した論点は想定されていなかったため、研究史上注目される解釈であると思われる。 明治維新期には無数の種類の貨幣が流通し、かつそれらが競合あるいは補完しあいながら貨幣市場を形成していた。解明されていない部分が多いこうした関係性に着目する視角である③については、実証的には金貨単位と銀貨単位、洋銀と一分銀・円銀の関係、小額銭貨と高額銭貨(特に天保百文銭)の関係、日本銭と清国銭の関係に着目し議論を深めることができ、それぞれ重要な論点を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方針について研究の公表及び研究の拡張の2点から整理する。 研究の公表という点では本年度の①の実績を学会発表とすることができたが、文章化までは至っていない。また②及び③の実績については文章化に加え、学会発表も行うことができていない。上記の研究の公表を次年度は進めていく必要がある。そのためには上記の研究を深めるとともに、積極的に発表を試みていく必要性がある。 上記の研究には無論課題も残されており、例えば①については経済政策との関係性について実証性を高める必要があろう。②については開港地以外の国内銭貨の流通との関連性の整理、③については全体的な実証性の向上と大坂相場の分析といった課題があり、これらに対し追加的研究が要請されている。こうした課題に極力取り組み、公表する際には議論の完成度を高めたい。 また研究の発表としては、各学会に積極的に参加し、公表の機会を得るとともに、他の研究者からの意見を受け取ることによって議論が精緻化されることを目指す。諸意見を斟酌した上で、論文を執筆し、査読雑誌へと投稿していきたい。 次に研究の拡張について論じる。以上のような研究はいずれも貿易開始から明治一桁までを主な対象としている。前者は明治維新期の貨幣制度の変容を分析する本研究の課題としては妥当であるが、後者の時期にはまだ貨幣制度の安定化が達成されたとは言い難く、ここを研究の終点とすることはできない。1884(明治17)年の銀本位制の確立を到達点と通説通り評価するならば、この時期まで射程に入れた研究を行う必要があると考えられる。現状この時期の分析についてはまだ手がついていない。次年度は先述の研究の発表を進めるとともに、分析が及んでいない時期についても分析を開始し、実証する範囲を広げることで、研究課題を達成していくことを目指したい。明治10年代の「価値基準」の再検討が必要であると展望している。
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