2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J10142
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森田 紘平 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 科学的形而上学 / パターン実在論 / 多世界解釈 / 構造主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究課題は以下の三つであった.量子力学の解釈である多世界解釈における創発概念とパターン実在論の批判的検討,現代物理学における創発概念の検討,最後のHubbardモデルの構造主義,創発概念からの哲学的考察である. まず,多世界解釈の創発概念については,量子古典対応の一つであるデコヒーレンスの役割が重要であることは知られていたが,デコヒーレンスの結果として創発するとされる準古典的な世界の存在論的地位について明らかにした.具体的には,これが量子力学だけでなく,古典力学にも存在論的につながっていること,及び,それでもなお古典的領域よりも本質的な存在であることを明らかにした. 現代物理学における創発は,具体的に言うと以下の三つの課題であると言えるだろう.量子力学と古典力学,熱力学と統計力学,最後にニュートン的重力と一般相対性理論である.今年度は,ニュートン的時空概念の創発性も重要であることを確認した上で,主に最初の二つの関係について考えてきた.量子力学と古典力学の関係について言えば,先にあげた量子古典対応として知られる関係を,熱統計物理学については主に相転移やそれに付随する熱力学的極限について考えてきた.これらの関係が重要な点で異なる,つまり古典力学は量子力学に一方的に付随するだけだが,統計力学は熱力学がなければ説明能力が下がることから,ある種の対称性があることを指摘した. Hubbardモデルについては,フォノンの例などその他の物性物理学的な知見を検討した結果,モデルの存在論的コミットメントの基準という,物理学の哲学に止まらない重要な課題が明らかになり,目下,これについて検討中である. 最後に,1月よりリーズ大学に短期で滞在しているが,上での議論の多くはイギリスでの議論に基づくものであり,その意義は非常に大きい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,多世界解釈における創発については順調に分析を行なっている.現状の多世界解釈が見過ごしている物理学的・哲学的課題については指摘することが可能であり,また,多世界解釈における存在論であるパターン実在論の利点と問題点についても明らかになった.現在は,具体例の検討に移っており,これによって第一の検討課題は明らかになっていると言っていいだろう. 第二の研究課題についても同様で,現状の創発概念の問題点について具体的に指摘することが可能な状況にあり,さらに近年の還元にまつわる議論も視野に入れた形で,現代物理学における創発についてはその概観を与えることができる.現状の問題点を解決するために,具体的な事例を分析する段階にあり順調に進展していると言っていいだろう. 第三の課題については,想定よりはやや遅れている.本研究は物理学を対象としているが,道具として分析哲学の議論も参照している.しかし,この課題で扱うテーマは日常的なレベルという意味でマクロな対象であるにもかかわらず.分析哲学は十分に分析するための道具立てを与えることはできていない.これは研究の進捗を遅らせるものであったが,一方で,本研究が分析哲学に対しても,新たな世界観を与えることに加えて,方法論的な側面でも不十分性を指摘でき,新しい方法論を提示することができる.その意味で,物理学の哲学の有効性を証明するものであるとも言えるだろう.
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Strategy for Future Research Activity |
量子古典対応については,主にデコヒーレンスを軸に分析を行ってきたが,さらにそれ以外の方法論である古典的極限についても検討していく.これにより多世界解釈の提示するパターン実在論の内容を精密化することができるだろう. 物理学における創発については,概念的な分析は概ね方向性が定まったので,より具体的な議論を検討することになる.現状では,量子古典をベースとした分析が中心となっており,今後はさらに熱統計力学や時空間に関する創発概念を検討する. Hubbardモデルの検討については,これ以外の重要なモデルについても研究課題が残ることが明らかになった.そこで,今後は,モデルの存在論的コミットメントの基準という側面,それと第一の課題において洗練されたパターン実在論といわれる立場でのモデルが記述する対象の分析という新たな二つの研究課題を見いだすことができた.この点をより詳細に議論していきたい.
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Research Products
(2 results)
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[Presentation] 量子力学の解釈と歴史2016
Author(s)
森田紘平
Organizer
第五回量子基礎論懇話会
Place of Presentation
情報システム研究機構会議室(東京都・港区)
Year and Date
2016-10-31 – 2016-10-31
Invited
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