2016 Fiscal Year Annual Research Report
南インドにおける第三ジェンダーをめぐる統治と個人についての文化人類学的研究
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16J10205
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
江原 等子 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ジェンダー / セクシュアリティ / 第三ジェンダー / インド / 主体 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、インドにおける第三ジェンダーをめぐる統治における諸個人の経験を分析する視座を得るため、まずピエール・ブルデューの実践概念を検討した。トランスジェンダーや第三のジェンダーがインドにおいて公的なカテゴリーとして要請されるに至った状況を経験的・民族誌的に明らかにするにあたって、歴史の生み出した図式に沿って個人的・集団的実践が生産されると考えるハビトゥスの議論は一定の有効性を持つ。しかし、主体性についてさらなる考察が必要であると考えられた。そこで、文化人類学および人文科学における主体論を精読・検討した。統治について、文化人類学的な経験に即した参与観察によるデータから考えるとき、主体に関する議論は手がかりを与える。とりわけ、家族から放逐され、親族とのつながりを断たれ、公的領域から排斥され、性的暴行を含む暴力を数多く受けてきた、第三ジェンダーとされる人の経験を考察することがもつ、当該の社会についての、さらに広くジェンダー/セクシュアリティについての批判的射程を測る際に、もっとも参考になるのは、アガンベンの主体化/脱主体化および非の潜勢力の概念である、と現在私は考えている。 次に、インド共和国タミル・ナードゥ州チェンナイにおいて約3ヶ月間のフィールド調査を実施した。主な成果は次の通りである。第一にタミル語能力の集中的な個人教授を受けた。この個人教授によって大幅なタミル語の理解力の向上が得られた。第二にタミル・ナードゥ州が発行している「アラヴァーニガル(トランスジェンダー)IDカード」に関して、発給を受けた/受ける人に聞き取りをし、またカードの受け取りに同行する参与観察を行った。第三にチェンナイのミドル・クラスの人びとにとって第三ジェンダーの人びとという他者がどのように立ち現れるのか、参与観察及び聞き取り調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず年度の前半には文献の検討を行った。この期間は当初の予定より長くなったが、分析のための視座を確立することができ、来年度以降の成果につながるものである。 そのかわり、本年度中にとることのできた調査期間は当初の予定の半分であり、調査の内容としても予定通りには進まなかったが、来年度により長く調査期間を設ける予定である。 文献研究においては想定以上の成果があり、調査においては予定通りの実施ではなかったため、2)おおむね順調に進展している、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に習得したタミル語を生かし、来年度はさらに詳細なフィールド調査を行う。 本年度の前半に行った文献研究の成果である主体性の論文について、来年度中の『文化人類学』への投稿を目指している。 また、上記の主題から派生した関心事である、過去の経験を語ることについて考察した論文を共同執筆中である。過去の経験を語ることに関する論文については投稿先を検討中であるが、文化人類学会第51回研究大会においてその概略を報告予定である。
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