2016 Fiscal Year Annual Research Report
禁酒運動と近現代日本の地域・職域社会―日本禁酒同盟資料館史料を通して
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16J10476
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
横山 尊 福岡大学, 人文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 禁酒運動 / 日本国民禁酒同盟 / 優生学 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
日本禁酒同盟と前身団体の研究について。2015年5月に社会事業史学会大会で報告した「禁酒運動からみた優生学運動―昭和戦前期の日本国民禁酒同盟の動向から」をもとに、論文の第1稿の執筆を終え、現在は改稿中である。旧日本禁酒同盟資料館所蔵(現在、武蔵野大学所蔵)史料のうち、『禁酒新聞』、『禁酒之日本』の目次データベースの作成は順調である。日本国民禁酒同盟の関係史料の収集も着実に進んでいる。2016年5月30日は国立国会図書館、東京都立図書館で禁酒運動関係の史料を収集した。31日は東京大学明治文庫で、6月1日は防衛省研究所資料閲覧室で禁酒運動関係の史料を閲覧し、前者は写真撮影を、後者は複写の手続きをとった。加えて、日本国民禁酒同盟の前身団体である、日本禁酒同盟の関係史料の調査も実施した。具体的には、2016年8月1日から3日は、青山学院大学資料センターで、同センターの所蔵が最も豊富である、禁酒雑誌『国の光』の目次や記事の複写を行った。それ以外でも関連史料や文献の読解と収集は、継続して行っている。 申請研究の基礎的研究、周辺研究について。中央公論新社の依頼を受け、解題「日記風回想録としての『木佐木日記』:新出史料から読む刊行の背景と意図」(『木佐木日記(下)』、2016年)を新出史料を踏まえ執筆した。2016年7月30日、日本科学史学会生物学史分科会の生物学史研究会が、拙著『日本が優生社会になるまで』(勁草書房、2015年)合評会を開催した。横山は著者として質疑に応答した。4人の評者の書評と併せ、2017年内に『生物学史研究』96号に掲載される。日本科学史学会の『科学史研究』編集委員会から依頼され、由井秀樹『人工授精の近代』(青弓社、2015年3月)の書評を執筆し、2017年4月に『科学史研究』281号に拙著書評とともに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本禁酒同盟と前身団体の研究について、戦時中を中心とした禁酒運動と優生学の関連性を論じた論文‘Eugenics seen from Temperance Movement in Prewar Japan――Focused on the movement of the National Temperance League of Japan’ があり、年内には投稿できると思われる。さらに、九州の三井田川炭鉱を中心とした禁酒運動、大平得三など医師を中心とした禁酒運動についても、過去の学会発表を踏まえ、論文化の作業を進めているため、論文執筆作業については、一応順調と思われる。旧日本禁酒同盟資料館所蔵(現在、武蔵野大学所蔵)史料のうち、『禁酒新聞』、『禁酒之日本』の目次データベースの作成も情報量は膨大であるものの、着実に作業を進めている。日本国民禁酒同盟の関係史料の収集も着実に進んでいる。すでに、旧日本禁酒同盟資料館所蔵の史料の多くは写真撮影を済ませており、今後の論文執筆や学会発表の基盤となることは間違いない。この点も研究進捗が順調とする理由になろう。また、前身団体の関連史料の収集が想定以上に進んだことも収穫であった。 「日記風回想録としての『木佐木日記』―新出史料から読む刊行の背景と意図」(『木佐木日記(下)』、中央公論新社、2016年)や拙著『日本が優生社会になるまで』の合評会原稿、書評など、申請研究の基盤・周辺に関する事項について、形になる成果が出せたことは、上記の成果に想定以上の良好な結果が加わったと評価してよいものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、日本国民禁酒同盟を中心とした禁酒運動に内在する意識形態と行動様式の分析を進めていく。旧日本禁酒同盟資料館史料を所蔵する武蔵野大学に加え、国立国会図書館、青山学院資料センター、あるいは同同盟の理事長を務めた生江孝之関係の史料を所蔵する同志社大学図書館など関係史料の調査を進めていく。 旧日本禁酒同盟資料館所蔵(現在、武蔵野大学所蔵)史料のうち、『禁酒新聞』、『禁酒之日本』、児童禁酒雑誌『のぞみの友』などの目次データベースの作成は、情報量は膨大であるものの、今後も進めていく。 2年目以降、禁酒運動をめぐる各論的分析の進展を加速させ、学会発表や論文執筆につなげていくことを図る。特に三井田川禁酒会など炭鉱禁酒会については、すでに史料・文献収集の相当部分は終えているが、関連史料の発掘・収集に余念のないよう努め、学会の部会や大会などの発表や、原稿化につなげるべく努力する。加えて軍隊における禁酒に関する議論や実践、実態に関する研究にも着手する。このテーマも国立国会図書館や各大学図書館、防衛省研究所に加え、軍事雑誌の所蔵が豊富な上原勇作文庫を有する都城市立図書館史料の活用も図りたい。アルコール中毒を対象とした医学的言説と厚生行政への影響についても過去の学会発表の成果を踏まえて発表可能な部分は原稿化を進め、検証が必要な部分は学会発表のかたちで諸賢のご意見を集め、原稿化への単著を探ることにしたい。上に挙げた各論的分析は、同時並行的に進めるため、進捗状況に応じて優先順位に変更が加わる可能性もある。 また、禁酒運動を分析するにしても国際的動向に加え、禁酒運動と敵対関係にあった酒造業界の動向分析も加味する必要があり、目下情報収集に努めている。加えて、本研究を嗜好品文化全般の研究に寄与するものへとつなげる努力を今年度以降試みたいと考えている。
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