2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J10959
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福田 莉紗 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2021-03-31
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Keywords | 考古学 / エジプト / 岩窟墓 / テーベ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究期間を通して、当初予定していた中王国時代に限定せず、エジプト史を通したテーベの岩窟墓の再利用の実態を把握し、知識を蓄積していくことが今後必須であることが判明した。よって、平成29年度は新王国時代以降の岩窟墓の再利用の実態を明らかにする上で必要不可欠ではあるものの研究の遅延が看取された、年代決定の鍵である遺物研究を実施することとなった。 年代決定の鍵として研究対象としたのは、エジプト第25王朝以降に新たに登場した葬送の道具の一つのビーズネットである。ビーズネットは埋葬において階層差に関係なく選択された設備や副葬品で、テーベの岩窟墓では多数出土していることからも当時の埋葬を考える上で重要な資料であると考えられる。しかし、ビーズネットの年代観や機能は依然として不明瞭であった。本年度はビーズネットの型式学的研究を行い、年代観等を明らかにした。 各型式は装着範囲によって大きく3つに分類され、この内2つがテーベなど上エジプトのみで出土するという地域的特徴が確認された。この3つのタイプは頸部表現・装飾とアタッチメントの装着方法によって全部で8つの型式に細別できた。複数の型式が併存していたことは十分に考えられ、各型式の選択は地域や、被葬者の社会的地位、埋葬に投資する費用に左右されていたものと思われる。しかし、アタッチメントの装着方法、アタッチメントの素材、頸部表現・装飾の変化から各型式のおおよその相対年代を推測することもできた。これまで多くの第25王朝以降の岩窟墓は王朝単位の年代観しか提示できなかったが、この研究によって岩窟墓同士の相対年代を推測できる可能性が出てきた。以上の研究成果は日本オリエント学会第59回大会、早稲田大学考古学会2017年度研究発表会等で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は海外調査への参加と資料調査の実施を断念せざるを得ない状況にあったことから計画していた研究の一部を実行することができなかった。このため、実地調査によって得られる予定だった研究成果がなかったことから、現在までの研究の進捗状況はやや遅れていると判断した。実地調査は実施できなかったが、文献調査と昨年度中に行った実地調査によって収集した資料と構築したデータベースの分析・考察に重点を置き、研究を遂行した。 昨年度に本研究を遂行する際の問題点として指摘した、本研究に不可欠な資料であるものの研究の遅延が確認された岩窟墓の年代決定に有用な遺物研究は、予定していた以上の成果に到達した。得られた研究成果を発表することについては、計画通りに学会等において口頭発表した。 上記のように一部の研究が実施できなかったことから進捗状況はやや遅れていると判断したが、研究成果は着実に蓄積している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も昨年度に引き続き、岩窟墓の年代を詳細に決定するのに有用なものを対象に遺物研究を行う。研究方法は、文献調査と欧米の博物館での資料調査を予定している。この遺物研究を通して岩窟墓の年代決定を行った上で、立地(地理的制限)、平面プラン、壁画装飾、碑文、被葬者、出土遺物に着目して分析・考察を行い、テーベの岩窟墓造営の社会的背景や再利用の実態、そしてネクロポリス全体の歴史的変遷の解明に取り組んでいく。本研究については文献調査に加え、テーベの岩窟墓で実施する学術調査への参加を予定している。
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