2016 Fiscal Year Annual Research Report
他者共生の技法と倫理:フィリピン農村における憐れみのポリティカル・エコノミー
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16J11273
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
白石 奈津子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 農村社会 / 共生倫理 / 人類学 / 経済関係と文化実践 / 包摂と排除 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フィリピンの農村社会を舞台に展開される他者へ向けた包摂と排除を紡ぎあげる日常の実践を検討し、そこから憐み(awa)などの概念をベースとしたフィリピン的関係性の倫理を明らかにすることを目的とする。 本年は、前年度から継続して行っていた現地調査を、5月末をもっていったん完了させた。この調査では、本研究の重要なキー概念である「憐み」について、教会関係者を中心としたインタビューを行った。また、これ以前に行っていた調査で見聞きしたことから、フィリピンの現金給付制度と人々の生活世界に関する論考をアジア・アフリカ地域研究に投稿した。 対外的な報告の機会としては、4回(うち3回は国際大会)の報告を行った。それぞれ、参加者の関心と研究を構成する部分との兼ね合いから、①憐みの概念を支える恐れの語りの民族誌報告、②機能としてのエスニシティ発現とそこにみられる多重性の分析、③憐みや恐れといった概念をベースとし、人々が日常的に立ちあらわれる様々な「不確実なもの」に対応している実践の検討、④現地の人々が形成する雇用関係が、従来一般的に語られてきた「パトロンークライアント関係」とどのような意味において異なっているか、また、そうした関係を成り立たせる背景にあるものは、具体的にどのような社会環境であるか、という切り口で報告、議論を行った。各大会では、参加者からの質問を受け、自由時間も含めて積極的な議論を交わした。 特に、④のテーマに関して、フィリピン文化の中での親密性をめぐる議論の重要性が特に明らかになったため、論文として整理し、現在、同研究所発行のジャーナルに投稿中である。 また、以上のような、多方面からの整理の結果判明したデータの不足を補うため、2月から3月にかけて、約一か月の追加調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、口頭報告を中心に、研究成果をソフトな形で整理した。その結果、全体としての研究テーマを練っていく上での問題点や改善点が明らかになったという意味で、本年度を通してあげられた研究成果は大きい。また、基本的に国際学会における報告に特化したため、その報告を通して海外の研究者とも多く情報交換をできた点も、今後の研究成果を上げるために大きな進展であった。しかし、一方で論文などのハードにおける成果が少なく終わったことは、反省すべき点である。本年度の報告によって整理された研究成果は、既に複数の論文としてまとめる構想ができているため、次年度では、順次それらを対外的に発信しつつ、最終的に博士論文としてまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、昨年までに学会口頭報告等で内容を整除した3つの論文を整理し、それぞれ異なる学会誌への投稿を行う。3つの論文の具体的中身とはすなわち、①労使関係における親密性と反目の語られ方に関する研究、②調査対象である農村社会経済の基盤としてのコメ流通制度と農家経営に関する研究、③落穂ひろいをめぐる憐みの感情の発露をめぐる人類学的研究である。これらのテーマに関して、投稿前に今一度学会や研究会などの公的な場での議論にさらし、内容のブラッシュアップを図る。具体的には、フィリピン研究会全国大会、東南アジア学会(例会および本大会)、地域農業経済学会、文化人類学会次世代育成セミナーでの報告を予定している。 前期中にこれらの論文原稿を柱として博士論文の草稿を完成させる。その草稿完成段階で明らかになる個別具体的な不足データに関し、9月をめどに2週間から3週間ほどの追加調査を行う。補足データをもとに12月までに博士論文を完成させる。 博士論文完成後は、投稿論文の査読対応を中心に行う。
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