2016 Fiscal Year Annual Research Report
「戦後」沖縄文学における「混血」をめぐる表象への批判的研究
Project/Area Number |
16J11414
|
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
藤本 秀平 琉球大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 混血 / 戦後 / 沖縄文学 / 人種主義 / 優生思想 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「戦後」沖縄文学における「混血(児)」表象のあり方を批判的に問い直すとともに、その表象が「戦後」沖縄の歴史的かつ文化的コンテクストによって、どのように生成・変化して来たかを明らかにすることを目的とする。 平成28年度は、第1に「混血」に関わる文学テクストと文献・資料の収集を国立国会図書館や県内の図書館等において実施した。小説、論文、雑誌、新聞記事、教育関係の調査報告書など、あらゆる文書から「混血」に関連する言及・描写を発見・考察することで「混血」をめぐるイメージの大まかな特徴を把捉することが出来た。 第2に、「混血」認識の下に流れる主要な地脈たる人種主義と優生思想に関連する文献の読み込みを行った。ミシェル・フーコー、エティエンヌ・バリバール、藤野豊、市野川容孝などの著作を読み込むことで、「混血」認識の歴史政治性について知見を深めることが出来た。 第3に、上述したテクスト・文献資料の収集や、その読み込みの成果の1部として研究発表を行った。具体的には「琉球アジア社会文化研究会」年次シンポジウムにて、「又吉栄喜『波の上のマリア』論」の発表を行った。発表では小説『波の上のマリア』(1998年)の読解を通じて、「混血」という呼称が1980年代頃から「ハーフ」や「ダブル」、「アメラジアン」といったものに代替されていくと同時に、「混血」をめぐるイメージが、それまでのネガティヴなものからポジティヴなものへと移行し加速していく90年代における「混血」表象の変動の動態を、同時代の歴史社会的かつ文化的背景から考察した。本発表の意義は、変化した「混血」イメージと呼称を、多文化性やグローバリゼーションの象徴として、華やかで「明るい」ものと語る言論の背後にある知の政治性を明らかにした点と、「混血」をめぐるイメージに「レイプ」が共軛的に結びつけられていることを考察し、批判的に論述した点にある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画時に予描した通り、目取真俊・大城立裕・又吉栄喜といった「戦後」沖縄文学において多くの作品を生み出して来た作家の作品群から、『新沖縄文学』、『琉大文学』といった文芸雑誌まで目を通し、未だ「混血」表象に注目したかたちで論じられていないテクストの収集を行った。予定よりも多く重要な作品を見出し得た点において、本年度の収穫は大きいと言える。 文学テクストのみではなく、それらのテクストを構成している、同時代の社会や文化と「混血」認識との関係性を示す資料の収集と、人種主義・優生思想関連の理論書の読み込みとを交差させながら、「混血」の象られ方の大まかな時代毎の変化とその歴史政治性を追うことが出来た点も、本研究の目的を達成する上で、計画時以上の進展があったと自己評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの作業を継続しつつ、計画通り、収集したテクストをジェンダー・セクシュアリティの観点と、米国による軍事的植民地主義的統治との関係性から読み込む分析に着手していく。具体的には、米国による「戦後」沖縄統治に関連する文献・資料のうち、特に、米兵の性管理や、日本・沖縄の女性と米兵との関わりを示すものを収集する。米国側あるいは、日本・沖縄において、「混血児」とその母が、どのように認識されていたのか/いなかったのかについて、分析を進めていく。 収集した文献・資料の蓄積と、その読み込みを通して得られる知見を踏まえつつ、文学(研究)の想像力と言葉を頼りに、「混血児」とその母を本質的・存在論的様態において分節化している、ジェンダー・人種主義・優生思想・植民地主義などの力線の交錯する権力の網目を丁寧に読み解いていき、その成果として論文を公刊していく予定である。
|