2016 Fiscal Year Annual Research Report
リン欠乏に対する樹木の繁殖と生産のリン利用効率化メカニズムの解明
Project/Area Number |
16J11435
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻井 悠希 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 森林生態学 / 植物繁殖生態学 / 植物生理生態学 / 生態系生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
リン欠乏環境に生息する熱帯樹木について、繁殖と生産でのリン利用効率化の仕組みを明らかにするために、以下2つの課題に取り組んだ。課題1)マレーシア・サバ州の8つの熱帯林においてリター動態を継続観測し、生産におけるリン利用効率と繁殖におけるリン利用効率の関係を生理生態学的に理解する。課題2)各サイトから新鮮な花・果実を採集し、組織別でのリン濃度を測定することで、繁殖器官における効率的なリン利用の生理生態学的メカニズムを解明する。
本年度は、ボルネオ島熱帯林での野外調査、および実験室での元素分析を中心に研究活動を行い、以下の2つのことが明らかになった。1)繁殖器官リターのリン濃度は、低リン環境の森林ほど低い傾向がある。これには、一部、土壌リン傾度に沿った優占種の交代が関係している可能性がある。すなわち、土壌リン可給性の低い森林では、蒴果などリン濃度の低い果実を持つ樹種が優占するので、繁殖器官のリン濃度が薄まる。、および2)土壌リン濃度の低い環境では繁殖器官のリン濃度の低い樹種が選択される。しかし、土壌リン濃度と繁殖器官リン濃度の関係は、繁殖器官の種類(花序や種子、果肉など)によって異なる。優占樹種の花序のリン濃度は、土壌リン濃度が低い森林では土壌リン濃度の高い森林と比べ有意に低い。一方で、種子のリン濃度については、土壌リン可給性に関係なく高濃度で維持されることが示唆された。
これらの成果に関して、3月の日本生態学会大会においてポスター発表として報告した。学会後には、熱帯樹木のフェノロジーに関するWorkshopに参加し、森林の繁殖生態に携わる各国の研究者と意見交換を行った。現在、これらの発表内容に関しては、英文論文として取りまとめているところである。論文については、来年度のはじめには国際誌に投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目の本年度は、野外調査、サンプルの元素分析を中心に研究活動を行った。ボルネオ島熱帯降雨林において、樹木の繁殖リターおよび新鮮な繁殖器官(花・果実)のサンプリングを行った。これにより、研究目的を達成するために十分な試料を収集することができた。これらのサンプルの元素分析は、当該年度に予定していた分析(繁殖器官リターのリン分析)に加え、次年度に予定していた分析(新鮮な花序・果実のリン分析)にも取り組んだ。結果として、当該年度で予定していた以上の成果を挙げることができた。これらの成果については、本年3月の日本生態学会大会においてポスター発表として報告した。この発表内容は、現在英文論文として取りまとめている。以上のような研究状況から、研究は当初の計画以上に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
リン欠乏環境に生息する熱帯樹木について、繁殖と生産でのリン利用効率化の仕組みを明らかにする。今後は、主に課題2に取り組む。課題2)各サイトから新鮮な花・果実を採集し、組織別でのリン濃度を測定することで、繁殖器官における効率的なリン利用の生理生態学的メカニズムを解明する。
これまでの研究により、研究目的を達成するために十分なサンプルが集まった。したがって、今後は、サンプルの分類・整理・元素分析、データ解析、論文執筆、学会発表を中心に研究を行う。年度の前半には、マレーシア・ボルネオ島に長期滞在し、これまでに採集したサンプルの種同定、秤量などを行う。昨年度のデータに、このデータを加え、英文論文を執筆し、国際誌に投稿する。この内容はまた、6月に行われる日本熱帯生態学会で、口頭発表する。
年度の後半は、これまでの研究成果をまとめ、投稿論文、博士論文の執筆、国際会議で成果を発信する。また、マレーシア・ボルネオ島に滞在し、最後のデータ回収、これまでに採集したサンプルの整理、サンプリング設備の後片付けなどを行う
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