2016 Fiscal Year Annual Research Report
高立体選択的鉄触媒クロスカップリング反応の開発と天然物合成への応用
Project/Area Number |
16J11488
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
縣 亮介 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | クロスカップリング反応 / 鉄触媒 / アルミニウム反応剤 / 不斉反応 / テルペン類 / マクロライド類 |
Outline of Annual Research Achievements |
Vitamin KやSpongidepsinなどをはじめとするテルペン類やマクロライド類は,多様な生理活性を示す重要な化合物群である。本研究は,これら化合物群の基本骨格である不斉点を有するアルキル骨格を高効率かつ選択的に構築可能な鉄触媒クロスカップリング反応の開発と応用を目的としている。平成28年度は不斉点構築を伴う鉄触媒クロスカップリング反応の開発に先立って,ハロゲン化アルキルとアルキルアルミニウム反応剤との鉄触媒アルキル-アルキルカップリングの開発を行った。Fe(OAc)2/Bn-Nixantphos触媒系を用いることで,種々のハロゲン化アルキルとアルキルアルミニウム反応剤とのクロスカップリング反応がオレフィンの生成をほとんど伴わず,高効率かつ高選択的に進行することを見出した。 始めに反応条件の最適化を行ったところ,配位夾角が広く剛直な構造を有するXantphosやXantphos 誘導体 (Bn-Nixantphos) が有効であることが明らかとなった。一方で,配位夾角が狭い二座配位子や単座のアルキルホスフィン,NHC配位子を用いた場合は収率・選択性ともに低下した。尚,本反応の進行にはフッ化カリウムの添加が必須であった。これはアニオン性が高い有機アルミニウムアート中間体の生成により,金属交換が促進されたためと考えている。 Fe(OAc)2/Bn-Nixantphos触媒系を用い,基質適用範囲を調べたところ本触媒系は高いクロスカップリング選択性を示し,官能基許容性にも優れることが分かった。ニトリルやエステルだけでなくアルミニウム反応剤が保護基の役割を果たすことで,カルボン酸やアルコールなどの官能基も共存可能であった。これはテルペン類などの合成において保護・脱保護を行うことなく反応が可能であることを意味しており,本反応の有効性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では,テルペン類やマクロライド類の基本骨格構築に資する新規鉄触媒クロスカップリング反応の開発とその応用を目的としており,平成28年度は不斉有機金属反応剤とハロゲン化アルキルとの鉄触媒クロスカップリング反応の開発を計画していた。しかし実際には,不斉点構築を伴う鉄触媒クロスカップリング反応の開発ではなく,ハロゲン化アルキルとアルキルアルミニウム反応剤との鉄触媒クロスカップリング反応の開発に行った。これは不斉点構築を伴う鉄触媒クロスカップリング反応において,不斉アルキルアルミニウム反応剤を用いることや,問題となるアルケンなど副生成物の抑制などについての基礎的な知見を得たいと考えたからである。加えて,既報のアルキルグリニャール反応剤やアルキルホウ素反応剤を用いた鉄触媒クロスッカップリング反応にはない,アルキルアルミニウム反応剤に特有の反応性や選択性が観測されるのではないかと期待したためである。 検討の結果,過剰量のフッ化カリウム存在下,Fe(OAc)2/Bn-Nixantphos触媒系を用いた場合に,アルケンなどの副生成物の生成が抑制され,高選択的に目的のクロスカップリング体が得られ,また官能基許容性に優れることも明らかとなった。特に,アルコールやカルボン酸を有するハロゲン化アルキルを保護することなくカップリング反応に用いることができる点や,フッ化カリウムによって容易にアルキルアルミニウム反応剤の活性化できる点は,アルキルアルミニウム反応剤に特有の利点であると考えている。 一方で,鉄塩や配位子などの反応条件の最適化や配位子の合成などに時間を多く費やしてしまい,当初計画していた不斉金属反応剤とハロゲン化アルキルとの鉄触媒クロスカップリング反応の検討が不十分となった。今後は下記の推進方策に示した二つのアプローチを並列して取り組み,本研究の目標を達成する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に開発した有機アルミニウム反応剤を用いた鉄触媒アルキル-アルキルカップリングの知見を活かして,不斉点構築を伴う鉄触媒クロスカップリング反応の開発を二つのアプローチから取り組む。 一つ目のアプローチは,不斉カルボアルミニウム化 (ZACA反応) によって調製可能な不斉アルミニウム反応剤とハロゲン化アルキルとの鉄触媒クロスカップリング反応によるものである。本反応の開発において想定される問題点として,反応系中で生じるアルキル鉄中間体からのβ水素脱離と引き続くオレフィンの再挿入反応による不斉点のラセミ化が考えられるが,Bn-Nixantphosを用いることで還元的脱離を促進させ,ラセミ化を抑制する。また同反応において,末端にオレフィンを有するハロゲン化アルキルを使用した場合,導入した末端オレフィンは,再度アルミニウム反応剤の調製に臥すことができ,連続的な不斉点構築も可能となる。 二つ目のアプローチでは,不斉配位子を用いた有機金属反応剤とハロゲン化アルキルとの鉄触媒不斉クロスカップリング反応を開発し用いる。触媒前駆体と有機金属反応剤とのトランスメタル化で生じるアルキル鉄中間体からのβ水素脱離に続いて,生じたオレフィンがヒドリド鉄中間体に再挿入する際に,鉄上の不斉配位子により不斉炭素の絶対立体配置が制御されると考えている。またこの求核基質側の不斉誘起に加えて,求電子基質として反応点に不斉炭素を有する第二級ハロゲン化アルキルを用いる場合,クロスカップリング反応の際に動的な不斉誘起を受けることで,一挙に二つの不斉点構築が可能となる。この新規二重不斉誘起反応の実現に向けて,Bn-Nixantphosのキラル誘導体やキラルNHC配位子を合成し,不斉配位子として検討する。最終的に,開発した鉄触媒クロスカップリング反応を鍵反応に用いてSpongidepsinの合成に取り組む。
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