2016 Fiscal Year Annual Research Report
Study of chambers in tumulus by muon radiography
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16J11883
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Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
石黒 勝己 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 古墳 / 古墳時代 / 大和の考古学 / 探査 / ミューオン / 素粒子 / 埋蔵文化財 / 放射線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は大型古墳の内部埋葬施設の検出を墳丘外部から非破壊で行うものである。これによって従来は古墳保護などの観点から困難だった重要古墳の内部構造を画像化し、考古学研究に役立てることが可能である。方法はミューオンラジオグラフィーという素粒子物理学の技術を用いる。似た手法としてレントゲン写真があり、レントゲン写真では物体内部の透視画像を透過X線量を測ることで得る。本研究では古墳を透過してくる宇宙線ミューオンの本数を測ることで古墳の透視画像を得る。宇宙線ミューオンは電子の仲間であるが電子よりも透過能力が高いため数百メートルの厚さの物体まで透視可能である。空から天然のものが常時降り注いでおり、古墳の内部に空洞が存在している場合その方向からのミューオン本数は増えることになる。ミューオンに対する遮蔽物が少なくなるからである。 まず申請者は奈良県立橿原考古学研究所においてミューオン検出器である原子核乾板を製造できるように新製造装置の開発、製作を行った。これによって一辺60cm*30cmまでの大きさの原子核乾板を観測対象古墳の近辺で安定して製造できるようになった。これまでのサイズは約10cm四方と小さく、遠方からの輸送によってノイズとなる宇宙線の混入が問題であったが、是を解決することが出来た。また、乳剤塗布時の温度コントロールを新たに出来るようにしたことで、厚さが均一な安定した原子核乾板を製造できるようになった。 次にこれらの開発により製造した原子核乾板を奈良県天理市の古墳および生駒郡の古墳に設置し、測定を行った。いずれの古墳においても古墳内部の画像化を行い、石室による空洞の検出が出来た。さらに生駒郡の古墳では石室が墳丘の低い部分にあるのに対し、天理市の古墳では2段目の高い部分に空洞を検出するなど、内部構造の重要データを得ることが出来た。これらのデータは今後の考古学研究に生かされる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画調書では本年度の目標としてまず検出器の面積を従来の4倍にするという挑戦的な目標を設定したが、生駒郡の古墳では従来の約7倍である720平方センチメートルの面積のフィルムを一度に3カ所に設置して計測を行う事が出来た。これは高性能な検出器を安定して作ることを可能にしたからである。申請書では名古屋大学の施設を借りて製造するとしていたが、製造速度に問題が出ること、実施地に遠く輸送時の宇宙線がノイズになって問題になること、乳剤塗布時の温度コントロールが難しいことなど従来の製造では問題があった。申請者は奈良県立橿原考古学研究所において新製造施設の建造を行い、これも解決することが出来た。原子核乾板には新たに薬品Aを添加することで、高温に強い検出器の製造も行えており従来1ヶ月以上の使用が難しかったが、2ヶ月感に渡って観測を行うことが出来、統計誤差を減らすことが出来た。申請者は昨年以前に奈良県大淀町所在の石室が発掘済みである古墳である石神古墳において試験を行っており、この際には空洞の検出は出来たものの、分解能不足から画像化は出来ていなかった。今回、奈良県天理市および生駒郡の古墳、京都市大枝山古墳において誤差を減らした計測をおこなうことで、これまでは画像化が難しかった古墳内部を画像化することが出来た。観測結果からすでに埋葬施設の空洞の長さ、高さ、位置などの情報を得ることに成功しており、画像化するだけで無く、これらの埋葬施設未発掘古墳から考古学的に貴重なデータを入手することに成功している。計画調書では想定していなかった古墳でも測定結果をあげることが出来ており、非常に順調に研究が推移していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度の本研究で得た大和の古墳におけるミューオンデータをコンピューターシミュレーションと比較して評価する。シミュレーションは、計算機上で仮想的に生成したミューオンを古墳に照射することで行う。古墳の表面形状は航空レーザー測量などで得たデータを用いるが、すぐに用いられるデータ形式になっていないので形式の変換を行うプログラム整備も行う。データに関してもより統計精度が高いものが必要であるが現在は放射線の遮蔽、夏場の高温対策の2点が不十分であるために長期のミューオン観測が出来ていないためこの改善を図る。古墳の測定を複数点から行う事でX線トモグラフィーのように3次元画像を原理上作成できる。 しかし複数箇所にフィルムを設置する際には多数のフィルムを同等に扱って精度の良い測定をする必要がある。そのために複数個所に仰角などを合わせて設置できる冶具の開発も行う。これらの開発から改善されたデータを用いて古墳埋葬施設の奥行き情報を含むデータ取得を目指す。さらに奈良県桜井茶臼山古墳、箸墓古墳での実施を目指す。これらの古墳は全長200mを越える大規模古墳であるため細部を見るためにはこれまで以上に精密な解析が必要である。さらに検出器設置箇所の吟味も必要なのでこれもコンピューターシミュレーションを活用しながら進めていく。箸墓古墳の3次元外形測定は奈良県立橿原考古学研究所ですでに行えており、このデータが利用できる。さらにこのデータから赤色立体地図を作成し、紙上に立体描写をすることを行っている。本研究で得られた墳丘内部データを赤色立体地図に組み込んで新たな表現手法を目指す。これは特許の申請も視野に入れて開発を進める。
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Research Products
(8 results)