2016 Fiscal Year Annual Research Report
深海イソギンチャクの生きた粘液から毒成分の精製と機能解析
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16J11939
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
筒井 健太 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | タンパク質 / 溶血 / イソギンチャク / 深海 / 大気圧下飼育 |
Outline of Annual Research Achievements |
イソギンチャクのような定着性生物は「深海」のような貧栄養環境下でどのように獲物を捕食するのだろうか。移動能力を欠くイソギンチャクにおいて、最も重要な武器は「毒」である。先行研究から、浅海種由来毒の単離や作用メカニズムは盛んに研究されているものの、深海毒の特性は謎に包まれている。本研究では、深海イソギンチャクが有する毒の解析を最終目的とし、一年目は毒素の探索と同定を行った。 深海生物の大気圧下飼育法を確立したことで、新鮮な生体試料を随時採取できることが本研究の最大の特色である。始めに、深海イソギンチャクCribrinopsis japonicaから抽出した粘液をウマ赤血球に添加したところ、溶血が観察された。また、プロテアーゼ処理や加熱処理で溶血活性が消失したことから、本毒素は高次構造が活性に必須な溶血タンパク毒であると推測された。クロマトグラフィーで粘液成分を分離し、溶血活性が観察された最終フラクションをSDS-PAGE解析したところ、およそ17 kDaのタンパク質が観察された。17 kDaバンドをN末端アミノ酸配列解析した結果、9残基のアミノ酸配列の取得に成功した。 先行研究において、RNA-Seq解析結果を基にC. japonica発現遺伝子データベースを構築した。当データベース上の遺伝子塩基配列をアミノ酸配列に変換し、17 kDaバンドのN末端アミノ酸配列を照合したところ、100%一致するアミノ酸配列が1件見つかった。これにより、17 kDaタンパク質の一次構造、および塩基配列が明らかとなった。 これらの成果は、大気圧下飼育を通じて、深海生物由来試料を分子レベルで解析できることを示している。さらに、本研究は大気圧下飼育アプローチのモデルとして深海分子生物学の発展に大きく貢献すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、クロマトグラフィーを用いて粘液成分を分画化し、目的タンパク質のN末端アミノ酸配列を解析した。C. japonicaのRNA-Seqデータベースと照合することで一次配列を決定したものの、新規性の高い本タンパク質は既存溶血タンパク質と相同性を示さず、今後、精製したタンパク質の機能を明確に示す必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
精製したタンパク質の一次構造を明らかにしたものの、新規性が極めて高く、既存データベース上で類似タンパク質を同定することが出来なかった。従って、単離したタンパク質の溶血活性を明確に示す必要がある。今後、異種タンパク質発現に取り組み、合成されたタンパク質が溶血毒素である直接的根拠の獲得に努める。 また、RNA-Seq解析において、複数種類の毒タンパク質の存在が示唆された。その中でもアクティノポリン(Actinoporin)様タンパク質に着目した。アクティノポリンはイソギンチャク毒素の中でも特に研究されており、深海種由来のものと既存アクティノポリンとを比較することも可能である。従って、本研究では深海イソギンチャクで発現するアクティノポリンの単離、同定も同時に行う予定である。
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Research Products
(1 results)