2016 Fiscal Year Annual Research Report
為替レートのパススルーの非対称性に関する研究:日本とアジアの輸出への応用
Project/Area Number |
16J11988
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
NGUYEN THI NGOC ANH 横浜国立大学, 国際社会科学府, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | ERPT / Nonlinearities / NARDL / predicted exchange rate / Japanese exports / pricing-to-market (PTM) / currency regimes |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究成果として、「日本の輸出における為替レートのパススルーの非対称性」を再検証した。新しい手法である非線形自己回帰分布ラグモデルを使い、さらに日本銀行が発表している予想為替レートを用いて、パススルーの非対称性の研究を発展させた。研究の成果を「Firm’s Predicted Exchange Rate and Nonlinearities of Pricing-to-Market」の論文にまとめた。 本論文の詳細は次の通りである。NARDLモデルを用いて、日本の産業別輸出に関する市場別価格設定行動が円高局面と円安局面でどのように異なるかを検証している。先行研究の多くは為替レートの変化率を用いて増価局面と減価局面を区別しているが、本論文は企業の予想為替レートを用いて予測誤差を計算し、閾値(Threshold)モデルを用いて円高局面と円安局面をより厳密に区別している。本論文の主たる発見は以下の三点にまとめることが出来る。第一に、短期では完全なPTM行動に近い推定結果が得られた。また、円高・円安局面において対称的なPTM行動が確認された。第二に、長期のPTM行動は2007-2015年の期間だけ有意に観察され、円高・円安局面で非対称性が存在していた。第三に、2007-2015年の期間では、円高局面において全産業で強いPTM行動が見られ、輸出価格と為替レートの連動性は60~70%程度であった。一方、円安局面では、「汎用・生産用・業務用機器」や「輸送用機器」において完全なPTM行動がとられていたが、その他の産業で推計されたPTMの水準は有意に低かった。 本論文を国際学会EAEA15(インドネシア)で発表し、さらに経済産業研究所、中国社会科学院の世界経済研究所、横浜国立大学アジア経済社会研究センターの共催であるワークショップ(北京)で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は日本の産業別輸出に関する市場別価格設定行動を新しい観点から分析することができ、先行研究の多くの為替レートの変化率を用いて増価局面と減価局面の区別と違い、企業の予想為替レートを用いて、閾値(Threshold)モデルを用いて円高局面と円安局面をより厳密に区別していることができた。また、NARDLモデルを使い、日本企業の輸出価格設定行動を短期と長期で見られ、産業別に違いがあると確認できた。国際学会にも研究成果を発表でき、研究計画通りに進歩したと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の目標は予想為替レートをより検証し、輸出価格の設定との関係や日本企業の利益との関係を調べる。 日本の輸出企業は出する際、予想為替レートを設定してから、輸出価格などの企業計画を立てる。そのため、実際為替レートが予想為替レートから外れた予想外の為替レートは企業の業績に影響を及ぼす可能性があり、また輸出際の価格設定と非常に密接な関係がある可能性は高い。今年度の研究は予想外の為替の変化に着目し、通貨局面ごとの予想為替レートの修正速度や、為替の想定外の変化による営業利益の影響、予想為替レート輸出価格設定との関係を検証していく。 具体的には次の計画で研究を行う。①予想為替レートを発表する日本の輸出企業の社名を集め、各社の決算短信を収集し、予想為替レートや営業利益などを企業レベルのデータベースを作る。②通貨局面毎の予想為替レートの修正速度(予想を変える速度/頻度)を計算する。③Capital Asset Pricing Model (CAPM)を用いて分析を行い、予想為替レートと営業利益との関係などを検証する。④予想為替レートの意義を理論モデルで証明する。
|