2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J40004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鴈野 佳世子 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 美術史 / 日本絵画 / 絵画技法史 / 掛幅縁起絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、作品調査や、研究協力者から提供を受けた掛幅縁起絵や高僧絵伝、絵巻物などの画像資料の収集・整理を重点的に進めた。特に、甲斐万福寺旧蔵絵伝群については、現在山梨県立博物館が所蔵する「法然上人絵伝」の修理経過調査に参加し、旧裏打ち紙を除去した状態で作品を裏面から熟覧することができたため、制作手法や工程、補彩・補筆箇所などについて再考することができた。今後、絵画制作技法の面から、他の法然絵伝や万福寺旧蔵絵伝と比較した分析結果をまとめる準備を進めている。 他作品についても下図線、構図制作から転写・骨描きに至るまでの作画工程に着目して、研究対象である掛幅縁起絵をはじめとした大画面絵画の制作手法を考察したいと考えた。初年度中に論考をまとめるまでには至らなかったが、なるべく多くの作品の下図線を比較するために、美術史研究者から作品のスライドポジフィルムの提供を受け、画像資料のデジタル化に取り組んだ。豊富な作品資料をデジタルスキャンすることでPC画面上での細部比較を効率化することができるため、この作業については継続して進めていきたい。現時点では、下図線と描き起こしがほぼずれることなく、完成形に近い下絵に基づいて描かれているとみられる作品や、転写後に本画の画面上で修正が加えられている作品、あたりをつける程度のラフな下図から制作された作品など、下図線と完成図を観察することで制作手法や制作姿勢をいくつかのパターンに分ける作業を行っており、今後はそうした制作手法と作品の制作背景や使用用途、制作時期、制作地などとの関連性について考察してみたいと考えている。また、掛幅縁起絵に限らず絵巻物や名所絵、肖像画、花鳥画、仏画、水墨画など他の絵画ジャンルについても作画の手法を改めて整理することで、絵画技法史において不明な点が多い中世絵画の制作実態を明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
作品の原本調査が必要とされる研究課題であるが、山梨県立博物館所蔵「法然上人絵伝」については、作品の解体修補という絶好の機会を得て詳細な観察を行うことができた。また、他の美術史研究者と取り組んでいる科研費研究等でも本課題で研究対象としている中世前期の大画面絵画について原本調査や資料入手の機会に恵まれ、着実に研究資料を蓄積しつつある。スライド写真を利用した下描きと完成図との綿密な比較事例の集積も順調であり、おおむね計画通りに研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は作品の原本調査と画像資料の分析を優先したが、次年度以降は寺社史料や近世以前の絵画技法書についての詳細な内容調査も並行して実施していく。中世前期の大画面絵画の制作手法や工程について、原本観察から得られる情報と文献資料から得られる情報を統合することで、やまと絵的な表現でありながら絵巻物とは異なる独特の工程や技巧の工夫があったことを明らかにしていきたい。特に、掛幅縁起絵等の大画面絵画における下図の制作方法や先行図様の利用方法に関しては、次年度中に論文発表を行いたいと考えている。
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