2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J40004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鴈野 佳世子 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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Keywords | 美術史 / 中世絵画 / 作画技法 / 絵画技法材料 / 掛幅縁起絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
主な成果としては、2015~2018年度に解体修理が実施された山梨県立博物館所蔵「法然上人絵伝」二幅について、修理から得られた技法材料に関する知見をまとめ、修理報告書に寄稿した。同作については2016年の修理経過調査に参加し、旧裏打ち紙除去後の裏面から作品を観察することができたが、本年度は修理後の作品を博物館で熟覧することができた。また、修理時に実施された近赤外線撮影や透過光観察、透過エックス線撮影についても画像資料や修理報告を入手することができたため、作品の制作手法や工程を考察する上で非常に参考となった。報告書では法然上人の事績を示す銘札の彩色材料が二幅で異なることや、画中に描かれる仏像の彩色技法に仏画の技法との共通点が見られる一方で、東大寺大仏部分などには下描き線が見られず、作画の自由度が高いことなど、顕微鏡撮影や赤外線撮影、裏面観察から得られた新知見を中心に報告している。顔料分析は行われなかったため、彩色よりも線描や造形に注目することとなったが、下描き線が描き起こし線に近く、複雑な建物や群像の描写にも破綻がないことから、精度の高い粉本・下図を利用したことが推測された。一方で自然景や霞にはやや緩やかな作画態度が看取され、大画面に多数の説話場面を配する初期の掛幅縁起絵、高僧絵伝の絵作りの手法を考える上でも示唆に富む作品と感じられた。本作以外の作例についても裏面観察や赤外線撮影、絵具の剥落部の観察などを通して下描き線の質の違いに注目することで、転写法や拡大縮小法など粉本の具体的な使用法や、作品の原初性を測る手がかりが得られるのではないかと考え、事例や画像資料を集めている。 その他、作品調査や研究協力者から提供を受けた掛幅縁起絵や高僧絵伝、絵巻物などの画像資料の分析を行った。最終年度に中世前期掛幅縁起絵の作画技法に関する論文をまとめるため、準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は万福寺旧蔵「法然上人絵伝」の修理後調査に参加し、作品の制作態度や制作者についての考察結果を修理報告書にて発表することができた。本作は中世前期の大画面掛幅絵として重要な作品であり、中世前期の地方寺院で単発的に制作された他の掛幅縁起絵についても下描き線に注目して粉本の使用実態について考察を進めている。最終年度には中世前期掛幅縁起絵の造形と技巧に関して、中世やまと絵系絵画の中での位置づけを再確認し論文としてまとめる計画であり、そのための資料収集や作品調査等、論文執筆のための準備を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、本法寺蔵「法華経曼荼羅図」の高精細画像および赤外線撮影画像を利用し、具体的な制作手法について、粉本・型の使用状況や全体の構成手法に関して調査を進めている。研究成果は2019年9月開催の同作に関するシンポジウムにて口頭発表を予定している。最終年度は本法寺本や万福寺旧蔵絵伝をはじめ、赤外線画像を入手することができた掛幅縁起絵を中心に作画工程や制作姿勢の分析をまとめ、論文発表を行う計画である。
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