2017 Fiscal Year Annual Research Report
絶滅危惧種アカウミガメの行動可塑性が高い性格に着目した生息外保全手法に関する研究
Project/Area Number |
16J40115
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
工藤 宏美 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 絶滅危惧種 / 移動性野生動物 / ウミガメ / 行動可塑性 / 行動シンドローム / パーソナリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、性格を特定するための刺激の選定と実験設定を行い、プロトコルを作成した。その後、設定した刺激を用いて刺激提示実験を行い、一貫性を確認した後性格を特定した。まず、捕食者などリスクをとる行動で示される大胆さ、奇異な状況や物への行動で示される新奇探索性の刺激を4つ設定した。この中から反応する刺激の選定と行動の個体差の一貫性を調べた。その結果、4種類の刺激のうち2種類に反応し、同一刺激で1回目と2回目の反応時間に弱い関連があったことから、個体の性格の指標の可能性が示唆された。次に、上記で選定した2種類の刺激である大胆さの刺激を網、新奇探索性の刺激に鏡を用いて実験設定を行なった。まず、鏡が奇異な物になるか確認するため、水槽の一方の壁に、刺激なし、鏡にカバーをした状態、鏡のみの状態を設定し、刺激近傍におけるウミガメの滞在時間と鏡への接近時間を比較した。ここでは、鏡に顔を向けて鏡に映る自分を追尾した一連の行動を接近と定義した。その結果、何も無いときに比べ、物体があると滞在時間と接近時間は長くなるが、鏡のみ提示したときに滞在時間と接近時間が最長となった。次に、網が大胆さの刺激になるか確認するため、網の刺激なしとありの状態で、刺激近傍に滞在した時間を比較した。その結果、網があると滞在時間が短くなった。このことから、鏡は新奇探索性の、網は大胆さを示す指標になることが示された。大胆さの刺激を手網、新奇探索性の刺激を鏡に設定し、同一刺激で2回実験を行い、1回目と2回目の間には有意な高い相関が認められた。このことから、手網や鏡に対する応答の個体差は、一貫した形質であり、個体の性格の指標となることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、アカウミガメの亜成体を対象に東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター内にある野外水槽で行う予定だったが、水槽やその他の設備の建設が間に合わなかった。そのため、当初の計画で予備の実験場所として設定していた大分県はざこネイチャーセンターが所有する野外水槽で刺激提示実験を行った。使用した個体も、大槌湾周辺の混獲個体と同様に、佐伯市越間海岸周辺の定置網で混獲されたアオウミガメ亜成体を用いた。ここでは、計画書(1年目)[ 性格の実験設定(平成 29 年度) ] を行うため、設定を行った刺激で、刺激提示実験を行った。計測した行動の個体差に一貫性が確認され、個体の性格の指標となることが示された。これにより、本年度は実験場所や種は変更したものの、当初の予定どおりの実験を行い、性格の特定を可能とする結果を得た。引き続き、どのような性格の個体が行動可塑性の高い個体なのかを調べる予定で、そのための準備体制はおおむね整っており、研究の進行に問題はない。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、アオウミガメの亜成体を用いて a) 状況の違いに応じた行動を計測することで、行動可塑性の高い性格の個体の特定を行い、b) 性格と野外行動の関連性を調べることで、行動可塑性に影響を与える行動特性の適応性を検証する。以上の結果をもとに、野生動物の性格と行動特性から、可塑性の高い性格の個体を特定することができ、生息域外保全の移植個体の選定基準を設定する。来年度は、引き続きa)の実験をして個体数を増やし、b)の実験を追加して行う。 具体的には、行動可塑性に影響を与える行動特性による適応性の検討を行う。行動可塑性の高い性格を特定後、野外に放流し、適応につながる機能的な行動(潜水・ 移動・休息)や位置情報を計測する。そして、それぞれの行動に費やす時間と場所を調べ、性格と野外行動との関連性を調べる。これにより、高い行動可塑性をもつ性格の個体の行動特性を明らかにし、適応性を検討する。行動計測には、回収が不要なサテライトタグを用い、性格の可塑性を特定した個体を野外の海洋に運び、潜水深度、水温、GPSセンサーを1個体に装着して放流し、衛星を介して活動や移動分散を示すデータを得る。性格の特定や野外での行動追跡で、より説得力のあるデータを得るために、状況によっては調査場所や実験の追加・変更も行う。
|
Research Products
(2 results)