2019 Fiscal Year Annual Research Report
植物の頂端-基部軸決定におけるオーキシン濃度勾配形成機構の細胞レベルでの解析
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16J40171
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮脇 香織 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2021-03-31
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Keywords | オーキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
被子植物は重複受精を行い、それらの種子は二倍体の胚、三倍体の胚乳、母親由来の組織である珠皮という3つの遺伝的に異なる組織で構成されている。種子がうまく成長・成熟するためにこれらの3つの組織間の情報の連携が必須となる。珠皮組織は親組織から胚に栄養を送ることによって胚発生を支え、胚や胚乳を包みこんで外部環境から守る役割を持つ。被子植物シロイヌナズナではオーキシンが胚乳で合成され、珠皮に送られることによって成長を開始させることが報告されている。しかし珠皮に輸送された後のオーキシン情報伝達経路の分子機構は明らかになっていない。シロイヌナズナの受容体様キナーゼTMKファミリーは4つのメンバーからなり、TMKの欠損変異株ではオーキシン感受性が低下する。TMKは細胞膜に局在することから細胞膜上でのオーキシン情報伝達に関わると考えられている。TMK4遺伝子の欠損変異株(tmk4)では、受粉後に外珠皮のオーキシン応答の異常と細胞死が起こり、種子自体の成長は遅延して比較的丸みを帯びた形状となる。この結果より、TMK4が珠皮成長過程でのオーキシン情報伝達に何らかの役割を果たすのではないかと考えた。TMK4の近縁タンパク質であるTMK1はオーキシン情報伝達の抑制因子やMitogen-activated protein kinase (MAPK)シグナル伝達経路を活性化することによって植物の屈曲構造の形成や側根の分裂を制御する。しかし、tmk4では「細胞死」という新奇の表現型が見られることから、珠皮組織でTMK4は他の組織とは異なる下流因子を制御する可能性が考えられる。本年度はRNAシーケンスによる網羅的な遺伝子発現解析を行い、tmk4での発現変動遺伝子を抽出した。そのうちtmk4で発現が低下している遺伝子群からクチクラ形成制御の鍵となる転写因子MYB106を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はTMK4の植物体内での役割をより詳しく調べるために、これまで使用してきたtmk4株(GABI_191D02)とは別のアリルであるtmk4-2株(SALK_087228)を単離した。tmk4-2の胚珠の珠皮を観察すると、tmk4株と同様に外珠皮の細胞死が見られた。この結果により、外珠皮の表現型はTMK4の機能欠損に起因する可能性がさらに高まった。外珠皮の細胞死の表現型を詳細に観察するために、野生株、tmk4、tmk234の珠皮の電子顕微鏡観察を行った。受粉後2日目の胚珠の珠皮を観察すると、tmk4とtmk234の胚珠の外珠皮の最外層と2層目の細胞に多数の小胞が現れ、その後細胞死が起こることがわかった。この結果により、tmk4とtmk234の珠皮の形成は正常であるが、受粉後の珠皮成長過程の初期に異常が見られることが示唆された。 TMK4の下流因子を調べるために、受粉後2、3日目の野生株とtmk4の胚珠においてRNAシーケンスによる網羅的な遺伝子発現解析を行い、tmk4での発現変動遺伝子を抽出した。そのうちtmk4で発現が低下している遺伝子群からクチクラ形成制御の鍵となる転写因子MYB106を同定した。また、これまでの知見やtmk4での発現変動遺伝子から抽出下TMK4の下流候補遺伝子を珠皮特異的に発現させてtmk4の相補実験を行うための植物用ベクターpBAN-mClover, pTMK2-mClover, pTMK4-mCloverを作成した。TMK4プロモータを評価するためのコントロール実験として、TMK4の近縁タンパク質であるTMK2をTMK4プロモータ制御下で発現させるベクターpTMK4-TMK2-mCloverをtmk4に形質転換したところtmk4の珠皮の表現型は相補された。この結果によりpTMK4-mCloverがtmk4の相補実験に適していることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、TMK4の珠皮成長過程での役割を明らかにすることにより、珠皮での細胞膜上オーキシン情報伝達経路を明らかにすることを目標とする。ライブイメージングによる珠皮細胞の可視化技術を確立し、tmk4の珠皮の表現型を細胞レベルで解析してtmk4における珠皮の細胞死はクチクラ形成異常によるものかどうかを調べる。また、トランスクリプトームおよび逆遺伝学手法を用いてTMK4がクチクラ制御因子を直接的に制御するのか、他の因子を介して制御するのかを明らかにする。さらに、構造解析によってTMK4のキナーゼドメイン(KD)とクチクラ制御因子との複合体の構造を調べて核内での作用機構を明らかにする。先行研究によりMYB106と近縁タンパク質MYB16はクチクラ形成の鍵となる転写因子として報告されている。一方で、クチクラ形成を制御する上流シグナルは不明であった。本研究によりTMK4がMYB106の機能を制御することが明らかになれば、オーキシンがクチクラ形成の制御シグナルとしての初めての例になる。TMK-MYBのモジュールを使ってオーキシンという初発のシグナルからクチクラ形成の全容を解明できることが期待される。
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