2019 Fiscal Year Research-status Report
組合せ位相幾何に基づく高レベル仕様からの並列・分散プログラムの生成
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16K00016
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西村 進 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10283681)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 並行分散プログラム / 組合せ幾何的手法 / プログラム導出 |
Outline of Annual Research Achievements |
共有メモリ並列分散計算システムのwait-free実行のための、組合せ幾何的モデルに基づいた高レベル仕様記述の方法についての研究を行った。並列分散計算の組合せ幾何的モデルの理論では、n+1プロセスからなるシステムの並列分散実行はn次元単体的複体(組合せ的図形)から別のn次元単体的複体への変形関数で数学的に完全に特徴づけられ、特にwait-free実行に限定した場合は、変形関数の標準形が分散即時スナップショットから導出される、単体的複体の色付き細分との合成関数として書き下せることが知られている。このような変形関数の個々の定義を簡明かつ効率よく記述するため、逐次実行プログラムの表現方法である帰納関数の概念を発展させ、変形関数の標準形を記述する方法について考察した。これは並列分散計算の高レベル仕様記述の礎となるものである。 また、(n+1プロセスのうち高々k個のプロセスまでが並行して実行可能な)k-並列実行モデルについてもその組合せ構造について研究を行った。k-並列実行モデルにおける即時スナップショットの二回繰り返し実行が幾何的には単体的複体に「穴」を開ける変形に対応するという事実から、k-並列実行モデルはwait-free実行モデルよりも高い計算能力を持つことが知られている。2回の連続する即時スナップショットの実行を、各スナップショットの実行を特徴づける順序付き集合分割を行列上で直行させた表現を発案し、k-並列実行がこのような行列表現の制限された形であることを見出し、その構造と組合せ幾何の関係について研究を行った。これはより計算能力の高い並列分散システムの仕様記述の基礎となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高レベル仕様記述からのプログラム生成を行うには、簡潔かつ効率的な仕様記述方法と、仕様からのプログラム生成手法が必要である。後者については前年までの研究によりその手法の核心部分は達成されているが、前者は未達であった。並列分散プロトコルのひとつであるAdaptive Renamingのアルゴリズムとそれに対応する単体的複体の変形関数に、単体的複体の構成に関する帰納的な定義構造が内包されていることに注目し、逐次計算の計算論の分野でよく研究されている帰納関数の概念を拡張し、いくつかの典型的な変形関数がこの拡張された帰納関数によって定義できることを示した。これによって、高レベル仕様記述からのプログラム生成が原理的には可能になるが、拡張された帰納関数が表現可能な範囲が(wait-freeプロトコルのさらに)一部に限られるという問題がある。 また、上記の拡張された帰納関数で扱えるのはwait-free実行のみに限られている。この制限を乗り越える一つの方法として前述のk-並列実行モデルを採用し、これによって導かれる組合せ幾何的構造の解明と理解を進めた。このモデルは、その組合せ構造に本来的な難しさが含まれていると考えられ、前年度に試みた単体的複体のEuler標数の特定のような古典的手法は放棄した。代わりに、前記の行列表現に基づいて、k-並列性が導出する幾何的構造の組合せ手法的特定を試みた。並列度kが小さくなればなるほど、単体的複体に高次元の穴が広がっていく様子が、行列表現が対角行列に近づいていくことに対応していることが観察された。しかしながら、この観察結果を定量的な組合せ幾何的性質として特定するにはまだ至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
予算も限られているため残った研究期間でできることは限られてくるが、主にk-並列実行モデルの組合せ幾何的性質の解明に力を注いでいく。組合せ幾何的性質を明らかにする手法としては、離散モース理論を適用する計画である。単体的複体の各単体に実数値を割り当てる関数で一定の性質を満たすもの(離散モース関数とよばれる)が存在すれば、その単体的複体は縮約できるという基本定理があり、これを用いて並列度kを小さくするほど単体的複体が高次元の穴を持つことを一般的に証明することができると考えている。また、k-並列性の組合せ幾何的構造の特定が成功したら、これを前述の帰納関数による単体的複体の変形関数記述と統合し、より計算力の強い高レベル仕様記述言語の基礎となる枠組みを提案したい。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症の拡大により、研究期間終期の計画を執行できなくなったため。 残余分は少ないが、研究資料収集、また状況が許せば、研究成果の国内発表等のために有効活用する予定である。
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