2016 Fiscal Year Research-status Report
場の雰囲気を読み,対面で積極的に,遠隔で緩やかに繋がるコミュニケーションシステム
Project/Area Number |
16K00371
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
伊藤 淳子 和歌山大学, システム工学部, 助教 (30403364)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コミュニケーション支援 / 対面コミュニケーション / 遠隔コミュニケーション / 対話 / 雑談 / 発言支援 / SNS / チャット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,人にやさしいインタフェースを備えた「場の空気を読み緩やかに他者と繋がることのできる」コミュニケーション支援システムの開発を目指す.支援の場として,遠隔コミュニケーションに対しSNSに,対面コミュニケーションに対し雑談,グループ議論,プレゼンテーションの場に着目する. 遠隔コミュニケーションに関しては,SNSを介して共同作業を行うシステムを開発し,実験によって匿名と実名による交流や作業進展の差を調査した.対面コミュニケーションに関しては,タブレットを活用しプレゼンテーション実施時に発表者が抱く苦手意識を軽減するシステム,および,グループ議論を行う際の発言を支援するシステムを実装し,対話内容を分析した.その結果,以下の成果を得た. 1.実名の場合は,匿名の場合と比べ共同作業に対しモチベーションをもって取り組めることや,目標達成の度合いが高くなるとの結果を得た.一方,雑談や単なる情報発信のためにSNSが使用される場合には,実名時には投稿や反応に対する気遣いなどのSNS疲れの問題がより強く表れるため,ゆるく他者と繋がるための要件として,一定程度の匿名性が必要であることが示唆された. 2.グループ議論中の発言を支援するシステムの利用時と不使用時の差を検証するために,3名1組の議論場面を撮影し,対話内容を分析した.その結果,システムの使用により自身だけでなく他のメンバーの発言が活発になったと感じる被験者が多く,実際,発言回数も増加した.また,一部のメンバーのみで議論が進んでしまうという発言の偏りも改善された. 3.プレゼンテーション実施前,実施中,実施後の3つの場面において,緊張感や苦手意識の軽減を目指すシステムを使用して実験を実施した.この結果,実装システムは実施前の段階において最も緊張軽減に効果があったが,対話やプレゼンテーションを妨げない設計が必要であることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,対面,遠隔コミュニケーションのデータを収集し,その内容を調査分析することによって課題点を洗い出した.平成29年度では,その課題点をもとにプロトタイプシステムの設計方針を定めて実装するとともに,プロトタイプシステムを利用した実験により課題点,および,支援の対象をより明確にする. まず,遠隔コミュニケーションに関しては,SNSを通じた多人数コミュニケーションについて分析を行った.その結果,匿名と実名,SNSの使用目的によって,アクセスの頻度や利用方法,投稿内容の傾向が変化していることが確かめられた. 対面コミュニケーションにおいては,プレゼンテーションや議論が苦手な学生から聞き取り調査を行い,支援が必要な点として,発言のタイミング,意見の伝え方,どのような発言がその場において適切か,などの項目が挙げられた.これらの意見をもとにタブレットを利用した支援システムを開発し,使用実験を行ったところ,項目の一部については改善が見られた.一方,改善が見られなかった項目に対する意見やインタフェースの改善点などの指摘を受けた.改善点は主として画面の見づらさ,機能の使いづらさ,および,支援メッセージの提示タイミングや内容の是正についてのものであり,システムの支援そのものに対しては,肯定的な意見が得られた.これらの成果の一部は平成28年度中に複数の国際会議に投稿し,平成29年度中の発表が決定している. このことから,本課題はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に行った分析調査や実験結果から,構築するプロトタイプシステムの要件の一部を得た.この結果をもとに以下の内容に取り組む. 遠隔コミュニケーションにおいては,匿名で他者とゆるやかに繋がることのできるシステムを開発する.これまでの研究成果の一部として,SNS疲れを感じずに他者と繋がる方法を実現するために,匿名で写真のみを交換するシステムを構築した.このシステムの利用により,他者の存在を感じられるとともに,自身の情報発信意欲を満たすことができることが明らかになっている.しかし,写真だけでなくテキストで情報を発信したいという意見も見られた.平成29年度は,テキストも含めた情報交換におけるSNS疲れの軽減を目指す.また,グラフィカルなインタフェースを備えた情報交換システムを構築し,匿名と実名によるシステム利用の差について詳しく検証する. 対面コミュニケーションにおいては以下の通りである.平成28年度に実装したシステムは,議論中のユーザに対し,議論の進行や発言の状態に応じてメッセージ提示などの働きかけを行う.このシステムからの関与が,議論を妨げる,自然な発言を抑制するなどの影響を与える恐れがある.また,本研究では,ユーザがシステムの利用によって徐々に発言や議論に慣れ,発言のタイミングや内容の適切さについて学習し,最終的にはシステムがない状態でも積極的に議論に参加できるようになることを目標としている.そのため,可能な限り,システムの介入を控えた設計にする必要がある.実験では,システムからのメッセージ提示の割合や提示方法についての意見が多く得られたため,その内容をもとにシステムを改善する.また,ユーザが入力しなければならない機能があり,議論に集中できない原因となることから,音声データの利用による無言時間の計測やファシリテーション行動の自動化について検討する.
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