2016 Fiscal Year Research-status Report
大脳皮質高次視覚領野における複雑運動知覚の情報表現
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16K00384
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
眞田 尚久 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 特任助教 (40711007)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 複雑運動 / MT野 / FST野 / 視覚運動 / 受容野 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は物の動きから様々なことを判断している。ターゲットの運動方向や速度を検出することで、迫ってくる物体から逃避したり、動きを追従して掴むこともできる。これまで運動視の生理学研究では、一方向へ動く運動に対しての神経細胞応答が主に調べられてきた。 しかし物体認識には、一方向へ動く運動だけでなく複雑な動きも重要な情報となる。バイオロジカルモーションと呼ばれる手や足など骨格の連動運動だけから、どのような生き物かを判断することができるし、液体のような流動運動から粘性を判断することもできる。 これまでの研究で高次視覚領野MT野には、物体の運動方向と、速度に選択的に応答する細胞が多数存在することがわかっている。しかし、自然界には一方向の運動だけでなく、複雑な運動が存在する。それにもかかわらず、複雑運動が大脳視覚高次領野のどこで処理されているのかは未だにわかっていない。FST野の神経細胞は、一様な視覚運動刺激にはあまり反応しないが、複数の運動ベクトルが受容野内に同時に呈示されるとよく応答する という報告があるが(Rosenberg et al. 2008, Mysore et al. 2010)、FST野がどのような機能的役割を果たすのかはよくわかっていない。 本研究では、これまで明らかにされていなかった、空間的に複雑な動きを伴う運動情報が高次視覚領野でどのように処理され、視覚運動の情報処理が領野間でどのように機能的な違いがあるのかを電気生理学的手法を用いて明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は、複雑運動刺激をデザインし作成し、MT野から電気生理実験を行った。複雑運動刺激の刺激軸には、心理実験で用いられてきた運動ベクトルの空間的な連続性をコントロールする指標である離散ラプラシアンを採用した。局所ベクトルの運動エネルギーの総和を一定にしたまま、空間的な連続性だけを変数として刺激空間を作ることで、運動ベクトルの空間的な配置をパラメトリックに操作することができる。これを実現するために、小さなパッチ状のランダムドット運動刺激をグリッド状に配置した視覚刺激を作成した。
運動方向は8段階、空間連続性を8段階設定し、運動方向と運動ベクトルの空間連続性の2軸を刺激空間とした。予測としては、MT野神経細胞は運動方向など視覚刺激の運動特性に対して選択性を示すが、空間的な連続性に対しては依存的な活動を示さないと考えていた。逆にFST野神経細胞は運動方向には選択性を示さず、空間連続性にのみ選択的な応答を示すという予測を立てた。実際にMT野神経細胞から電気生理学的に応答特性を測定したところ、ほぼ予想通りの応答が得られた。 しかし、刺激の空間配置条件を数パターン用いて実験をしたところ、空間配置パターン依存的に活動強度に差が見られたことから、運動刺激の一部の空間配置によって影響を受けた可能性が考えられた。このことから運動刺激の運動方向と空間連続性だけでなく、空間配置自体も刺激のパラメータとして考慮していく必要があることが分かった。現段階では、MT野、FST野の両領野から記録を行う予定のうち、MT野からの記録までは進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
MT野記録でわかった問題点を踏まえて、運動方向、運動ベクトルの空間連続性に加えて、運動ベクトルの空間配置も考慮した視覚刺激に修正する。その上で、MT野、FST野の両方から電気生理実験を行うことで、両領野でどのような特性の違いがあるかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
28年度にMT野での実験を行い、その結果をもとにFST野での実験を行う予定であったが、MT野から得たデータ解析から、視覚刺激の改良が必要であることが分かったため、計画を一部変更しFST野での実験を29年度に行うこととした。そのため、FST野からの記録に必要な物品を29年度に購入することにしたために未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
FST野での深部記録を行うための多点深部電極、解析用コンピュータの購入費に充てることとしたい。
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