2017 Fiscal Year Research-status Report
HLA-ペプチド親和性の網羅的計算法の開発とベーチェット病の病因解明への応用
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16K00397
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
石川 岳志 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (80505909)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野口 博司 日本薬科大学, 薬学部, 教授 (60126141)
竹内 二士夫 東京聖栄大学, 管理栄養学科, 教授 (70154979)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヒト主要組織適合抗 / ベーチェット病 / エピトープ予測 / 結合親和性予測 / ドッキング計算 / フラグメント分子軌道法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ヒト主要組織適合抗原(HLA)とペプチド断片の結合親和性を予測する計算手法を開発し、ベーチェット病(BD)の抗原エピトープの特定に利用することである。平成29年度は、28年度に開発した親和性の予測法を、BDの抗原と考えられているMHC class I chain related to gene A transmembrane(MICA-TM)のアミノ酸配列に適用した。MICA-TMの配列から作られる8~11残基のペプチド断片1254種に対し、HLA-B*51およびB*52との結合親和性を算出したところ、エピトープとして注目されている「AAAAAIFVI」の親和性の順位は、B*51の場合54位であったのに対し、B*52では355位であった。これは、B*51がBDと強く相関し、B*52が相関しないという事実と矛盾しない結果である。 さらに、AAAAAIFVIとB*51およびB*52との相互作用を詳細に調べるため、フラグメント分子軌道(FMO)法に基づく量子化学計算を実行した。この際、極性相互作用を考慮するHF法に加えて、分散力といった非極性相互作用を考慮するMP2法を用いた。計算の結果、BDと相関を持つB*51では63番目のアミノ酸がASNであるのに対し、相関の無いB*52ではGLUになっており、この位置のアミノ酸との相互作用エネルギーが大きく異なっていることが分かった。しかし、B*51だけがBDと相関を示す明確な理由は得られなかった。今回のFMO計算では、構造モデリングによって作られた単一の構造が用いられたが、複数の構造で計算を実行し結果を平均的に考慮することで、生体内での揺らぎを反映したより信頼のおける結果を得ることができる。よって、そのような解析から、B*51が相関する理由を導き出せる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で開発した結合親和性予測方法では、N末側4残基とC末側4残基の親和性を、個別に計算する。従って、20の4乗回(16万回)のドッキング計算を、N側とC末側に対して実行すれば、そのアリルに対する全ペプチド断片の親和性予測が完了することになる。従って申請当初は、29年度の段階でHLA-B*51とB*52に対する全ドッキング計算(64万回)を終え、分子間相互作用の違いを議論する計画であった。 しかし、本助成金で購入した計算機のみでは、64万回のドッキング計算を全て完了することが難しいと考えられたため、ベーチェット病(BD)の抗原候補となっているタンパク質のアミノ酸配列に絞って計算を実行することにした。研究実績の概要に記載したとおり、今年度は、MHC class I chain related to gene A transmembrane(MICA-TM)のアミノ酸配列に対して計算を実行した。また、申請時の計画には含まれていなかったが、MICA-TMの中でBDのエピトープと考えられている「AAAAAIFVI」という配列と、B*51およびB*52との相互作用メカニズムを、フラグメント分子軌道(FMO)法による量子化学計算から解析した。このような計算からも、分子間相互作用におけるB*51とB*52の違いを議論することができるため、当初の予定と同等の研究成果が得られると期待される。 また、本研究計画では、実験的および疫学的なエピトープ探索と連携するために、野口および竹内に研究分担者として参加してもらっている。平成29年度は、3月にタイのチュラロンコン大学で行われたBDに関する打ち合わせに、野口および竹内と共に参加し、今年度に行われたフラグメント分子軌道計算の結果を発表すると共に、来年度の連携についても議論した。 以上のことから「概ね順調に進捗している」と自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要に記載したとおり、平成29年度はベーチェット病(BD)の原因と考えられているMHC class I chain related to gene A transmembrane(MICA-TM)の配列に対して、独自に開発したペプチド親和性予測法を適用した。また、フラグメント分子軌道(FMO)法を用いてペプチド断片「AAAAAIFVI」とHLA-B*51およびB*52との分子間相互作用解析を行った。 平成30年度は、BDの原因と考えられているもう一つの候補、つまり熱ショックタンパク質(HSP60)のアミノ酸配列を対象に、ペプチド親和性の予測を実行する予定である。これによりHSP60のアミノ酸配列の中から、B*51との親和性は高いがB*52とは低いという特徴を持った、ペプチド断片の配列をピックアップすることができる。このようなペプチド断片は、BDのエピトープの候補と考えることができ、その情報を分担研究者の野口および竹内と共有することで、実験的および疫学的手法によるエピトープ探索に役立てたいと考えている。 また前年度のFMO計算は、単一の複合体構造に対してのみの計算であったため、構造揺らぎの効果が含まれておらず、それが原因で、B*51だけがBDと相関する理由を得ることができなかったと推測される。従って今年度は、複合体に関する分子動力学計算を実行し、そのトラジェクトリーから複数の構造を抜き出し、FMO計算を実行する予定である。得られた結果を平均的に解析することで、生体内での揺らぎの効果を部分的に取り入れることができ、単一構造の計算から得られなかった知見を得ることができると期待される。
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Causes of Carryover |
本助成金の一部を、学術雑誌の表紙の印刷料の支払いのために確保しておいたが、予想よりも少額だったため余剰金が生じた。文具などの消耗品に使用しても良かったが、緊急に必要なものが無かったので次年度へ繰り越した。
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Research Products
(20 results)