2016 Fiscal Year Research-status Report
DNA損傷を負った細胞が生死の運命を決定する時期と要因の解明
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16K00549
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Research Institution | Kanazawa Medical University |
Principal Investigator |
橋本 光正 金沢医科大学, 一般教育機構, 准教授 (70293975)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥田 光一 金沢医科大学, 一般教育機構, 講師 (60639938)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | X線感受性 / DNA損傷 / DNA修復 / アポトーシス死 / 細胞周期 / 生存コロニー / タイムラプス顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、DNA損傷を負った細胞は損傷を修復して生存をするのか、アポトーシス死するのか、この決定をいつ、どのように下すのか、を明らかにすることである。そこで、X線照射後のヒト培養細胞をタイムラプス顕微鏡で動画撮影し、最終的に生存あるいはアポトーシスに移行した細胞の照射以降の状態を、観察した。その結果、早い時間帯(48時間以内)に死ぬ細胞はほとんど観察されず、96時間以内にアポトーシス死を迎えた細胞も5%以下であった。逆に96~120時間にアポトーシス死を迎えるものが多数であった。同じ条件で調べたフローサイトメトリーによるSSCのシフトでも同様の結果が得られた。さらにX線照射後のBrdU取り込み、及びBrdUパルス処理の結果からアポトーシス死を迎える細胞の多くは、S期ではなく、G2期に移行した後、アポトーシス死するものが多数を占めることがわかった。このことは細胞の死に至る過程でDNA分解の前段階があることを示すと考えられる。 次に、2種類のヒト培養細胞に4Gy(生存率約50%)と8Gy(生存率約10%)のX線を照射し、コロニー形成実験を行った。用いたいずれの細胞株でも非照射のコントロールで、一つのコロニー当たり100~150個程度の細胞を含むようになるまで、培養を続けた。このときヒト培養細胞において、4Gy照射では、生存コロニー当たり60~80個程度の細胞を含むコロニーが全体の約80%を占めた。その他の生存コロニーは、そのほとんどが40個以下であった。次に8Gy照射では、生存コロニー当たり60~80個細胞程度のコロニーが全体の約40%を占め、逆に生存コロニー当たり40個以下のものが全体の約60%を占めた。これらの結果は、DNA損傷を負った細胞の修復過程において、細胞周期停止期間の実態を示すと同時に、早い修復と遅い修復の割合が、損傷程度によって異なることを示すと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で記述したように、放射線照射を受けた細胞のタイムラプス動画実験から、その細胞が死に至る過程を、詳細に観察することができた。このことから、当初の予定通り、この計画部分は順調に進展しているといえる。しかし、撮影した動画のデータが大量にあり、その解析にはまだまだ多くの時間が必要である。これについては撮影間隔を30分から60分にする解像度を低めに設定する等で対処した。また研究分担者は、このような大量画像を処理する比較的短い時間で簡便に解析するプログラムを開発中であり、その完成後は、現在までに取得したデータを精査し直す予定であり、その結果、計画の見直しが発生する可能性がある。 EGFP融合53BP1を発現させたU2OS細胞株を基に、Fucci G1 Orangeを発現する細胞株U2OS-E53BP1-FG1を樹立した。これについては樹立に当初予定より時間を要した。現在この細胞を用いて、レーザー共焦点タイムラプス実験を行い、その動画データを解析している。 本研究の目的、「DNA損傷を負った細胞は、損傷を修復して生存を試みるのか、修復をあきらめてアポトーシスへ舵を切るのか、この運命の決定をいつ下すのか、を明らかにすることである。」に対して、定性的な実験計画と細胞生物学的実験計画については、順調であるが、分子生物学的実験手法を用いた、そのメカニズム解析についてはやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の2点を中心に推進する。 1. Slowアポトーシスへの進行を決定付けるDSBの状態、細胞周期をより明らかにする。 U2OS-E53BP1-FG1細胞株にX線照射を行い、動画96-120時間でSlowアポトーシスに陥った細胞について、動画0-96時間で照射を受けた細胞周期や照射後のDSBの変化を調べる。これによりSlowアポトーシスを引き起こす要因を明らかにする。また、DNA-PKに対するsiRNAや、DNA-PK阻害剤でNHEJと抑制するとG1期に照射を受けた細胞で、またCtIPやBRCA1に対するsiRNAでHRを抑制するとS~G2期に照射を受けた細胞で、Slowアポトーシスが増加することを確認する。 2. 生存した細胞のDSB部位がどのような修復経路で修復されているかを明らかにする。細胞株ISceINHEJ、I-SceIHRに、NHEJあるいはHRを抑制するsiRNAを導入する。48時間後にエストロゲンを2時間加えI-SceI部位にDSBを発生させる。エストロゲンを洗い流した後、セルソーターを用いて生細胞の大きさからG1期細胞、S~G2細胞を分画し、直ちに動画撮影を始める。実験B、Cと同様の観察を行うとともに、別途コロニー形成法で生存した細胞について、修復されたゲノム上のI-SceI部位の塩基配列を調べる。G1期細胞でNHEを抑制すると、断端4-8塩基の相補性を利用するmicrohomology mediated-EJ経路が使われ、S~G2細胞でHRを抑制すると、NHEJ経路が使われると予想している。
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Causes of Carryover |
キャンペーン等を利用して、予算計上時より安価で必要な物品を入手することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初予定通り行う。それに加えて、予想とは異なる実験結果となったものに対して、新たにそれを解明するための実験計画に着手する予定である。
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