2016 Fiscal Year Research-status Report
ハイブリッド酵母による草木質バイオマスの並行複発酵
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16K00660
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
田中 修三 明星大学, 理工学部, 教授 (00171760)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バイオエタノール / 草木質バイオマス / アルカリ酸化処理 / 酵素糖化 / オンサイト酵素 / キシロース / 細胞融合酵母 / 活性化培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の主要課題は木質バイオマス(BM)の前処理技術の開発である。BMとして楢と杉を選び、その粉砕BMにNaOHによるアルカリ処理(A処理)及びNaOHとH2O2によるアルカリ酸化処理(AO処理)を行い、その糖化促進効果を酵素による糖生成及びBM中のリグニンや炭水化物の組成変化等により評価した。 A処理の場合、BM1.0gにNaOH1.0g添加(A-1.0処理)の効果が高く、未処理BMに対して、糖生成は楢で16.5倍及び杉で5.1倍の生成量であり、糖化率ではそれぞれ36.5%と15.1%であった。このときBM中リグニンは楢が22%減少したが、杉はほとんど変わらなかった。A処理の結果を踏まえて、NaOHを1.0gに固定してH2O2を0.025~0.4gの範囲で添加したAO処理の効果を検討した。効果の高かったH2O20.1g添加(AO-0.1処理)で、糖化率は楢が61.4%、杉が34.9%に向上した。このときBM中のリグニンは楢が8%減少したが、杉は変わらず、また炭水化物は両BMでキシランの減少(溶出)とグルカンの増加が確認された。但し、キシラン溶出は炭水化物全量に対して最大18%に留まった。また、顕微鏡観察によればBMが前処理により膨潤化しており、この形態変化も糖化促進の重要な因子であると考える。さらに、NaOH処理後にH2O2を加える二段処理を行った結果、楢は前述の同時処理の1.14倍の糖を生成し、二段処理の効果が見られたので、続けて検討する。 木質BMは非食糧BMのうち最も存在量が多いが、その前処理がエタノール製造のボトルネックになっている。本研究により、AO処理は糖化促進効果が高く、操作も簡単であり、木質BMの前処理技術として高い可能性を持つことが分かった。今後、AO二段処理の詳細実験を行い、薬品量の低減や並行複発酵への適用条件等を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
草木質BMのアルカリ前処理に関して、現在までに楢と杉を用いた木質BMに対するアルカリ処理(A処理)とアルカリ酸化処理(AO処理)の処理条件と糖化(酵素糖化)促進の効果を検討してきた。前述の研究実績の通り、交付申請書の研究目的・実施計画に対して、研究は概ね順調に進展している。以下にその根拠を説明する。 AO処理により、A処理の糖化促進効果を大きく向上させることができ、楢は糖化率で61.4%を達成した。この糖化率は糖化工程のみ(単独糖化)で達成されており、糖化と発酵を同時に行う並行複発酵にすれば生成糖の消費によりさらに糖化が促進されるはずである。この前提として、別実験で並行複発酵の糖化が単独糖化の約2倍の糖生成を示すことを確認している。また、リグニン量と炭水化物組成の変化及びBMの膨潤による形態変化を調べ、前処理による糖化促進の機構の一部を明らかにした。これらの成果は初年度の研究目的と実施計画を概ね満たしており、またAO二段処理の検討により、当初計画をさらに発展させることができる。なお、当初計画にある稲藁(草本系BM)に対する前処理の実験は現在進行中であり、木質BMの手順に従って行うので、特に研究の遅延等の問題は生じないと考えている。 また、最終年度(2018年度)の主要課題としたハイブリッド酵母FSC株による並行複発酵に関して、前倒しで基礎的な実験を進めており、これまでにFSC株の五炭糖発酵能及び凍結保存株の活性化培養法等について新しい情報を得つつある。たとえば、凍結保存株の活性化培養に関して、長期培養による進化過程でFSC株の異なる表現型が出現することが判明し、当初予測していなかった異なる表現型による発酵能の違い等についても検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目(2017年度)以降も概ね当初の実施計画に従って研究を進める。但し、最終年度に予定していたハイブリッド酵母FSC株による並行複発酵の実験をすでに始めているので、二年目の主要課題としていた糖化条件と酵素生産(オンサイト酵素の生産)の検討は、予備実験を進めながらも、本格的な実験は最終年度に回す計画である。これにより当初計画の研究目的や期待される成果が縮小されることはない。むしろ、並行複発酵の実験を二年間にわたって遂行することにより、ハイブリッド酵母FSC株によるエタノール製造技術の応用や実用化に向けた発展的な情報を得ることができるものと考えている。 FSC株によるエタノール製造技術の実用化に際して、前述のFSC株の異なる表現型の出現は重要な問題であり、ブラジルではエタノール生産効率を著しく低下させる現実の問題として数例の報告がある。従って、これは新しい研究課題として本研究でも取り上げていく方針である。 研究発表に関しては、学会発表はこれまで通り年数回の頻度で行い、さらにこれまでの成果をまとめて学術誌への論文投稿も進めていく計画である。
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Causes of Carryover |
物品購入による端数残額である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費に使用する。
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