2017 Fiscal Year Research-status Report
ハイブリッド酵母による草木質バイオマスの並行複発酵
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16K00660
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
田中 修三 明星大学, 理工学部, 教授 (00171760)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 並行複発酵 / FSC酵母 / MT酵素 / キシロース / 有機物負荷 / pH / 糖化促進効果 / 補酵素NAD |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度実施状況報告書に記述の通り、当初二年目の課題としていた「MT酵素による糖化条件と酵素の生産方法」の検討は最終年度に回し、最終年度の「MT酵素とハイブリッド酵母FSC株による並行複発酵」を二年目の課題として研究を行った。 キシロース発酵に及ぼす有機物負荷(20~100 g-基質/g-菌体)の影響を調べ、発酵48hにおいては負荷100 g-基質/g-菌体でもFSC株は完全にキシロースを消費し、安定したエタノール生成を確認した。キシロース 10g/Lの系においてグルコースの影響を調べたところ、グルコース10 g/L添加系でキシロース消費の遅滞が見られたが、グルコース2~8 g/Lの範囲では、発酵96hでFSC株によるキシロース消費がグルコース無添加系の約1.5倍に向上し、グルコースがキシロース消費にプラスに働くことが分かった。 つぎにセルロースとキシランの混合多糖類基質を用いて、MT酵素(自前のMT株産生酵素)とFSC株による並行複発酵に対するpHの影響と糖化促進効果、またキシロース発酵に及ぼす補酵素NADの影響を調べた。酵素糖化に適したpH5.0及び酵母発酵に適したpH5.8の各pH系で並行複発酵を行ったところ、両pH系おいてエタノール生成に大差はなく、並行複発酵はpH6程度に調整・運転すればよいことが分かった。MT酵素単独による糖化と並行複発酵による糖化を比べると、糖化率は糖化単独系が48%、並行複発酵が82%であり、並行複発酵により糖化率が約1.7倍になることが確認された。また、キシロース発酵においてキシリトールからキシルロースへの酸化分解には補酵素NADが必要(NADはNADHに還元)であるので、NADの添加系と無添加系を比較すると、添加系でキシロース蓄積の減少とエタノール生成の向上が見られた。このことはNADHのNADへの再生が重要であることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MT酵素とFSC株による並行複発酵技術の開発に関して、現在までにキシロース発酵に及ぼす有機物負荷やグルコースの影響、混合多糖類基質を用いた並行複発酵に対するpHの影響と糖化促進効果、またキシロース発酵に及ぼす補酵素NADの影響などを検討してきた。前述の研究実績の通り、交付申請書の研究目的・実施計画に対して研究は概ね順調に進展している。 草木質バイオマスを原料とするエタノール生産において、酵母による五炭糖キシロースの発酵は実用化のための重要な課題である。FSC株は高い有機物負荷(100 g-基質/g-菌体)でもキシロースを消費し、安定的にエタノールを生成することを確認した。また、キシロース 10g/Lの系において、グルコース8 g/L以下であれば、グルコースの存在がキシロース消費にプラスに働くことが分かった。これはグルコースとキシロースが主な糖である草木質バイオマスにとって重要な知見である。 酵素糖化と酵母発酵のそれぞれの最適pHは異なるので、単一槽で行う並行複発酵においてpHは重要な管理因子となる。MT酵素とFSC株による並行複発酵はpH6程度に調整・運転すれば、糖化も発酵も効率よく進み、高い糖化率とエタノール生成が達成されることを確認した。今回は混合多糖類基質を用いた実験であるが、得られた結果は草木質バイオマスを原料とするエタノール生産にも応用できると考えている。また、キシロース発酵において、キシリトールからキシルロースへの酸化分解で生成される還元型NADHを酸化型NADに再生する必要があり、これについてはさらに検討が必要である。 また、前年度にFSC株の凍結保存株の活性化培養に関して、長期培養による進化過程でFSC株の異なる表現型が出現することがあることを経験し、異なる表現型による発酵能の違い等についても検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度(2018年度)の課題は「MT酵素による糖化条件と酵素の生産方法」であり、先行研究で獲得したMT株による酵素産生(オンサイト酵素の生産)の条件を固め、2016年度から2017年度にかけて開発したアルカリ酸化法により前処理した草木質バイオマスを用いて、MT酵素による糖化の最適条件を検討する。 基本的には研究計画調書(2016年度作成)に記載した内容に従って研究を進めるが、MT酵素による糖化において第一の課題は発酵温度30℃で高効率の酵素糖化を促す条件を探ることであり、必要に応じてMT株の更なる変異処理も検討する。また、実用化に向けたオンサイト酵素として、酵素の大量生産の技術についても検討する。 その上で、草木質バイオマスを原料として、前処理・糖化・発酵の各プロセスを一連のバイオエタノール生産技術として統合することの検討を行う。その結果を踏まえて、エタノール生産コストの解析も行う方針である。 研究発表に関しては、学会発表はこれまで通り年数回の頻度で行い、さらに次年度になる可能性が高いが、これまでの成果をまとめて学術誌への論文投稿も進めていく計画である。
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Causes of Carryover |
研究補助員の退職による人件費の未使用額と物品費の増大支出額の差額である。残額は翌年度の物品費に充てる。
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