2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K01044
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
林 慶一 甲南大学, 理工学部, 教授 (10340902)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 山地崩壊 / 土石流 / 凍結風化 / 化学的風化 / 気候 / 中央高地 / 四国山地 |
Outline of Annual Research Achievements |
山地の地形形成において,大規模な斜面崩壊が第一義的な役割を果たしているという仮説を検証するため,気候条件・地質条件の異なる地域での調査を行った.平成28年度は,日本で最大最高級の山岳地帯である中央高地の3地域,①寒冷な多雪気候下の立山連峰の花崗岩地帯,②寒冷な山岳気候下の木曽山脈の花崗岩類地帯,③相対的に降水量が少ない赤石山脈の花崗岩地帯と,降水量の多い四国南部の付加体堆積物からなる2地域,④西部の隆起量の小さい四万十地域,⑤東部の隆起量の大きい室戸地域,で調査を行った.その結果,次のような成果が得られた. 中央高地の同じ花崗岩類の3箇所での風化が,①から②さらに③へと,凍結風化による角礫の生産が少なくなる一方,水による化学的風化が強くなる傾向が認められた.これらは,生じた砕屑物の粒度組成と円磨度に反映され,その侵食/運搬に違いをもたらすと解釈された.すなわち①では長期の冠雪により凍結風化が速く進み,それによって生じた粗粒の角礫は雪崩と融雪時の増水によってすみやかに侵食/運搬され、山地には未風化の硬質岩が露出して急斜面を形成し,河川では河口まで巨礫が運搬される傾向が強い.②では積雪が少なく冠雪期間が短いため,凍結風化の進行は①よりも遅くなるが,降水による化学的風化が進行し,花崗岩のマサ化が顕著になり,これが潤滑剤となった斜面崩壊/土石流が発生する.③では凍結風化の効果はさらに小さくなるが,降水が地中での滞水となりマサ化が深層に及び厚い風化層が形成され,それが素因となって斜面崩壊と土石流が高い頻度・密度で発生する.④と⑤はほぼ同じ気候下での同じ地質であるにもかかわらず,④が隆起量が1mm/年と小さいため,河川の浸食により比高の小さい緩傾斜の山地ができるのに対して,⑤は隆起量が大きく深層崩壊と大規模土石流の発生する傾向がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,28年度は東北地方の日本海側の多雪地帯での山地の調査も行なう予定であったが,中部山岳地帯の北端の立山連峰の黒部渓谷で大量降雪の効果をある程度推定することができたので、東北地方の堆積岩地帯での調査は次年度以降に行うこととした.一方,中部山岳地帯での調査では気候の違いが風化による生産物に違いをもたらし,気候と風化生成物質の特性が合わさって,侵食/運搬様式にに明らかな違いをもたらすことが判明した.また,この中部山岳地帯での調査結果を,筆者による紀伊半島での先行研究と比較したところ,隆起速度の大きさが山地の比高や斜面の角度に大きく影響を与えていることが明らかになってきた.そこで,当初の研究計画では次年度以降に調査する予定であった四国の太平洋側について,同じ地質で隆起速度の異なる西の四万十地域と東の室戸地域での比較調査を行なった.この四国での調査によって,気候・地質という要素に隆起速度の要素を加えることで,より合理的に山地地形の形成過程を推定できる見通しが立った.このようにプラスとマイナスがあったが,総合すると概ね順調に進行していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
筆者の紀伊半島での先行研究の成果に基づいて,日本各地の山地の地形の特徴が地質や気候を反映した山地崩壊や土石流の性質の違いによるものとの仮説に基づいて研究を計画・開始したが,28年度の調査で隆起速度もまた重要な要素であることが判明したので,この点を今後の研究計画に組み込む必要が出てきた,基本的な研究の方策には変更はないが,今後調査を予定している北海道の寒冷気候下の中生代付加体堆積岩・変成岩類の山地,日本海側の多雪気候下での火山岩類・新旧堆積岩類の山地,太平洋側の夏季多雨気候下の中生代変成岩類の山地の調査においては,隆起速度の異なる2地点以上を選定して,比較することとする. なお,当初計画ではマルチコプターによる地形調査を計画していたが,飛行に関わる法律上の制約が強くなりデータ収集が十分にはできない状況になってきた.一方で,国土地理院が日本全土について新たに詳細なシームレス空中写真の公開を始めたので,これにより必要な情報の入手が代替できるようになった.そこで,今後の本研究における野外調査では,マルチコプターによる調査を止めて地上調査を主とすることに変更し,調査範囲を上記のように隆起速度の異なる複数地域に拡大することにしたことにともない,マルチコプターに予定した経費はこの追加の野外調査費に充当する.
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Causes of Carryover |
四国での野外調査(調査旅費約16万円)を28年度内に計画していたが,最も重要な調査地域である室戸半島の奈半利川で国土交通省等による大規模な砂防事業進められていたため,それが一段落するのを待って29年度4月に延期した.また,土石流研究の成果刊行費として,日本地質学会誌へ投稿した論文のカラー印刷費用等(約20万円)として予定していた経費が,掲載号の発行が29年度となったため,繰り越すこととした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
延期とした四国の野外調査は4月3~9日に実施する.成果刊行費として準備していた費用は4月4日に日本地質学科編集委員会より採用決定の通知が届いているので,29年度の早い時期に印刷発行された際に使用する.
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