2016 Fiscal Year Research-status Report
シラク政権下の博物館構想ールーヴルからホロコースト記念館まで
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16K01204
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Research Institution | Kurashiki University of Science and the Arts |
Principal Investigator |
松岡 智子 倉敷芸術科学大学, 芸術学部, 教授 (90279026)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジャック・シラク / 博物館構想 / ケ・ブランリー-ジャック・シラク美術館 / セルジュ・クラルスフェルト / ホロコースト記念館 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ドゴールからはじまりミッテラン大統領の時代に至るまでの博物館政策とは明確に一線を画している、ジャック・シラク政権下の「多文化共存」重視の博物館構想について、平成28年度はパリのルーヴル美術館やケ・ブランリー美術館の他、国立移民史博物館、ユダヤ芸術歴史博物館、ホロコースト記念館も加え、総合的な視点から研究を行う予定であった。折りしもシラク政権下の文化政策の目玉とも言えるケ・ブランリー美術館創立10周年目のこの年の6月より、同美術館の名称が「ケ・ブランリー-ジャック・シラク美術館」に変更されるとともに、創立者であるシラク自身に焦点をあてた「ジャック・シラク-文明の対話」展が開催された。本研究に関連の深いこの展覧会を中心に調査を行うため、9月16-22日、パリに出張し展覧会を視察、展覧会図録や同展覧会について解説・評論した雑誌などの貴重な資料等、日本では入手困難な文献資料を収集することができた。以上から明らかなように、同政権下の博物館を中心とした文化政策の成果がフランスでもようやく認められつつあり、本研究の意義を再確認できた。 その一方、シラク政権下の文化政策の一環として、これまで指摘されることのなかったホロコースト記念館についても言及した『ジャック・シラクの演説集』の翻訳書出版に向けて、監訳者である筆者ともう一人の共訳者である京都ノートルダム女子大学名誉教授の野田四郎氏の二人で翻訳を完了したところである。また、演説集の編者である「フランス被追放ユダヤ人子息子女協会」会長セルジュ・クラルスフェルト氏の序文を筆者が翻訳、そして、奈良女子大学教授の渡辺和行氏に依頼した序論の原稿も年度中に完成、筆者が担当した13編の演説とメッセージの解題執筆も年末にようやく終えることができた。しかし、最大の課題はこのような著書を出してもらえる出版社探しであり、年度内は未決定の状況だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「フランス被追放ユダヤ人子息子女協会」会長のセルジュ・クラルスフェルト氏が平成19年に発行した、ホロコーストに関連した『ジャック・シラクの演説集』(仮称)は一般の書店で販売されておらず、平成26年に筆者がパリのホロコースト記念館で入手したものである。本研究テーマに関連するだけではなく現代フランス史においても資料的な価値が高いと判断した筆者が翻訳出版を計画するにあたり、再度著作権について確認する必要が生じた。そして、そのためにかなり時間を要し、このような要人の公開されたスピーチ、メッセージについてはパブリック・ドメインの扱いで良いということが判明し、著作権に関する手続きは必要ないとの結論に達したのが平成29年3月末であった。また、翻訳以外にも一般の読者向けに各演説やメッセージについての解題執筆を手がけるために、国立国会図書館でフランスの新聞記事を閲覧することから開始し、不明な箇所については、フランスのホロコーストの専門家である奈良女子大学教授の渡辺和行氏やクラルスフェルト氏にご教示をいただいた。また、掲載すべき写真の選定や入手にもかなりの時間を要した。 なかでも、前述したように最大の課題となったのは出版社探しであり、平成28年度中、数社に翻訳原稿を送るなどして交渉を試みたが良い返事は得られなかった。平成29年3月下旬、東京の明石書店がこの翻訳書の出版にはじめて意欲を示し、4月上旬に筆者と最初の打ち合わせを行った結果、5月に正式に出版契約を結ぶこととなったのは幸いであった。
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Strategy for Future Research Activity |
目下、明石書店の編集部と校正作業を行っており、今夏には『ジャック・シラクの演説集』(仮称)が刊行される予定である。著書出版ののち、平成29年8月下旬から9月上旬のうち約1週間、フランスに出張し、出版に対して多大な協力をいただいたセルジュ・クラルスフェルト氏の他、ホロコースト記念館、ユダヤ芸術歴史博物館、国立移民史博物館、ケ・ブランリー美術館関係者、とりわけスケジュールが合えば、昨年、ケ・ブランリー美術館で開催された「ジャック・シラク、文明の対話」展の企画を行った学芸員へ聞き取り調査を行う予定である。 ただし上記の出張や時期については、国際情勢や勤務先の大学での業務の都合や訪問先予定のフランスの美術館・博物館の関係者との交渉により、変更する場合もある。その一方で、著書出版を契機として国内の関係者や専門家からも聞き取り調査を行い、昨年度に引き続き、東京を中心とした国内の図書館や大学、その他の研究機関で文献資料収集を行う。以上の調査と文献収集に基づき、論文を執筆する予定であり、今後に備えて美術史学会または日仏美術学会で行う研究成果の発表の準備と著書出版の準備を行う。
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Causes of Carryover |
平成29年3月に資料収集と聞き取り調査のためフランス出張を予定していたが、非常事態宣言下の同年2月上旬、パリのルーヴル美術館で刃物を所持した男が警備にあたっていた兵士に襲いかかり、発砲を受け重傷を負うというテロ行為があったことと、4~5月には大統領選がひかえていたため、国内情勢が落ち着くまでは出張を取りやめることとした。そのため、当初の計画を変更し、平成28年9月にパリに出張し、ケ・ブランリー美術館を中心に調査研究を行った以外は、東京の国立国会図書館を中心に国内で文献収集を行ったり、研究テーマに関連する書籍を購入するなどして資料収集に努めた。また、フランスの公的機関や個人から写真を借用する場合の交渉に必要な文書の記載に誤りがあってはならないので、翻訳文書の作成を業者に委託し、報酬手数料を支払った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に『ジャック・シラクの演説集』(現在入稿中)を出版するにあたり、明石書店より100万円の助成金が必要との条件の提示があったため、前年度の未使用額477,473円と本年度の交付予定金80万円の合計1,277473円(直接経費)から100万円を、研究成果発表を目的とした出版のための助成に充てる。そして、残高277,473円は、8月下旬から9月上旬のうち約1週間のフランス出張の旅費に使用する予定である。しかしながら、出張の時期や期間については、国際情勢や勤務先の大学の業務やフランスでの訪問先の美術館・博物館の都合により、変更する場合もある。 また、不足分の旅費、人件費や謝金に関しては本学の個人研究費や私費でまかなう予定である。
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