2017 Fiscal Year Research-status Report
現地観測値と数値標高モデルを用いた日本アルプスの氷河・周氷河地形の発達史研究
Project/Area Number |
16K01215
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
池田 敦 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (60431657)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 永久凍土 / 地温観測 / 岩石氷河 / 氷食谷 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は,初年度(28年度)に実現できなかった地温観測機器の設置を富士山で行うことができた。当初,測器新設は北斜面での実施を計画していたが,同地への掘削機材の運搬が困難であったことなどから,西斜面での実施になった。新設測器のデータを回収できるのは30年度夏季である。富士山および赤石山脈の既設測器から得た地温データについては,今年度に解析を進めた。 本研究では,現在の観測値を基準に過去の永久凍土分布を見積もることを目指している。永久凍土分布は,氷河分布に比べ降水量の多寡の影響を受けにくく気温に強く依存するが,次に述べるように,富士山の現状を基準に過去の永久凍土分布を推定する際には補正が必要であることが明らかになった。山頂に設置していた既存の測器から得られた地温データを分析したところ,現在は台風による降雨浸透による昇温作用が顕著であり,それによって地表面より永久凍土上端の年平均地温が1℃高く,またその結果,富士山の永久凍土帯の下限は世界の他の中緯度沿岸部の山岳地に比べ,気温換算で1℃程度高いと見込まれた。 赤石山脈の亀裂の多い深さ2.5mまでの岩盤地温は,融雪水の深部浸透・再凍結による変動を示し,このことは凍結融解深の大きな岩盤深部で凍結破砕が進行することを強く示すデータを得たと言える。一方,そこでは台風に同期する地温上昇はみられなかった。こうした富士山と異なる温度の挙動は,日本アルプスの永久凍土帯下限の時間変化の議論を,富士山のデータを拡張し進められる部分と,進められない部分があることを示しており,今後,慎重に考察を深めていく必要があった。 GISソフトウェアを用いた地形解析に関しては,購入した空中写真のオルソ化を開始し,地形判読精度の向上を図ったほかは,29年度は大きく進展させることができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要に記したとおり,初年度に見送った測器新設は29年度に実施できた。富士山と赤石山脈の既設測器のデータをもとに,日本アルプスの永久凍土分布下限を現在および氷期それぞれについてどのように評価すべきか,検討を重ねることができている。現段階であまり進捗していないのは,過去の凍結作用を反映している考えられる平滑斜面に関する地形解析であり,その解析結果と永久凍土分布の変遷とをリンクさせるのは30年度(最終年度)の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
新設,既設の測器のデータを回収し分析するとともに,現在までの進捗状況を鑑み,平滑斜面の地形解析を実施する。また,29年度に実施した氷食谷の形状解析を拡張するアイデアも得ており,それについても実施し,そうした結果を総合する。
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Causes of Carryover |
野外調査の回数を当初計画よりも少なくしたために,若干の残額が生じた。次年度の旅費等にあてる予定である。
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