2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K01306
|
Research Institution | National Institute of Occupational Safety and Health,Japan |
Principal Investigator |
玉手 聡 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所, 研究推進・国際センター, 首席研究員 (10344243)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀 智仁 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所, 建設安全研究グループ, 主任研究員 (20508634)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 土砂崩壊 / 被災防止 / 土圧 / 保護具 / 労働安全 / 生き埋め事故 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、作業者が建設工事中の土砂崩壊で被災することの防止である。労災防止には土砂崩壊そのものが発生しないようすることが第一である。しかしながら、単なる崩壊防止(の指導)だけでは人的被害を無くせない問題の難しさがある。 災害の占有割合を調べると大規模掘削よりもむしろ小規模掘削中に労働災害は多い。特に、深さ1.5m以下の浅い掘削は労働安全衛生規則による規制の範囲外であることから対策は強制されておらず、発注者も土止め費用を認めにくい現状がある。 深さ1.5mの掘削壁はN値が2以上であれば理論上は自立する。したがって、相当な軟弱地盤であっても掘削壁はそう簡単には崩れない。しかし現実には崩壊して多くの労働災害が発生している。その背景には地盤工事特有の問題がある。例えば、過去の工事で地盤構造が変っていたり、周辺環境の変化によって地下水位が上昇することがある(直接原因)。さらに、危険に気づかず逃げ遅れる問題もある(間接原因)。自立性の地山では降伏後に塑性変形がゆっくりと進むがその変形量自体が小さく目視では前兆に気づきにくい。掘削からしばらく経ってから崩れるケースではこのタイムラグが作業者を油断させる。注意して作業を行っていても危険に気づかず逃げ遅れるのである。 したがって、掘削工事において単に崩壊防止を指導するだけでは十分でなく、「もし崩壊したらどうするか?」。すなわち安全を多面的に考えることが重要となる。過去の被災事例では、胸部までの浅い埋没にもかかわらず重篤な災害に至ったケースが見られた。 そこで本研究では人的被災の防止の観点からたとえ胸部まで埋没しても生存可能な保護具の開発を行っている。特に、ここでは基礎的研究として保護具の構造と強度に着目した実験的調査を行っている。 以上のとおり、本研究では土砂崩壊による労働災害について新たな安全対策を提案するための検討を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に開始した本研究は第2年目を終了した。この間、ほぼ計画通り研究を遂行できた。 初年度は、既往の研究から仮定した保護具の強度的な必要性能に従って簡易な第一段階の試作を行い、これを載荷試験して構造的課題を整理した。具体的には、脱着性と運動性を同時に満足させるための構造を検討した。両性能を満足するためにはフレーム接合部を背面側には設けるべきではなく、左右独立した一対の構造とすべきことがわかった。しかし、接合部を有しない構造は荷重載荷に対する安定性と抵抗性に乏しく、特に抵抗力増加が容易でない問題が明らかとなった。 第2年目は左右独立した一対構造のコンセプトをベースに、抵抗力増加の方法を検討した。その結果、梁部を背面と地盤で挟み込むように保持させることで抵抗力増加が可能なことを発見した。保護具の一部を片持ち梁支点とさせるアイディアであり、保護具全体を曲げ変形させて土圧を支持させるものである。 運動性と抵抗性は通常相反する関係のものであったが、種々の試行を通じて両性能をある程度同時に満足可能な構造を考案できた。深さ2mの掘削溝を模擬した部分に人型供試体(マネキン)を設置した。このマネキンには試作第2段の保護具を装着させた。設置後、溝脇の地盤表面に高さ約1.5mまで盛土して地山を不安定化させた。これは残土の設置を模擬したものである。その後、溝壁部分は勢いよく崩壊し、マネキンは頭部を残して胴体部分が完全に埋没した。この時の埋没深さは約1mであった。 埋没までに生じた荷重的変化をマネキン表面の圧力計と保護具フレームに貼り付けたひずみゲージで計測した。その結果、表面圧力の値は全く増加することなく、崩壊土砂による荷重は全て保護具側で支持された。 以上より、本研究で考案した構造の保護具は胸部圧迫を大幅に軽減する可能性が見いだされ、労働災害防止が期待できることを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究の第3年目でありであり最終年度である。本年も前年までと同様に計画に従って研究を遂行したいと考えている。 今年度の目標は保護具のさらなる性能向上と、最終年度としてのまとめである。前年までの検討から保護具の基本的な形状と構造はほぼ決定された。しかし、前年度の試作物は汎用部材を用いた簡易なものであった。今年度はこれまでの総合的検討に基づいてさらにレベルアップした試作(第3段階)を行う。具体的にはパイプ溶接によりフレームを製作する予定である。 これと同時に、性能向上のための新たな検討も行う。前年度の試作第2段は保護具の構造が土砂外力に対して弾性的に支持するものとなっていた。しかしながら、前年度の土砂崩壊実験のデータから、荷重のピーク値は大きいもののその作用は衝撃的であることがわかった。すなわち、作用時間は短かった。 したがって、さらにダンピング的機構を導入できればフレーム構造はよりスレンダーにすることができるはずである。ただし、ここで問題となるのは保護具の構造上、汎用のダンパーを組み込めないことである。そのため、ダンピング的な抵抗力を別の機構で発揮させる新たなアイディアが必要であり、本年度はその構造も検討する。 本年度は以上のような保護具の試作を行う。また、その性能を確かめるための土砂崩壊実験を同様に行う。さらに、最終年度としてのまとめを行って本研究課題を総括する。
|
Causes of Carryover |
平成29年度の費用の支出では、実大規模の土砂崩壊実験に関する役務(建設機械使用料とオペレータ費用料)への支出を優先したためにその金額は当初よりも大きくなった。一方、それによって不足した予算は出張を見直して旅費で調整した。 実験供試体(保護具)の試作では汎用材料を使用することで金額を節約した。その結果、当該年度全体では約13万円の残額(次年度使用額)を生じた。 次年度の平成30年度は本研究の最終年度として本研究の集大成をまとめたい。そのため、これまでよりも本格的な保護具の試作を行ってその有効性を検証する計画である。次年度使用額の13万円についてはその費用に活用したい。また、研究成果を論文にまとめて国際会議に投稿しており、その発表のための出張経費にも活用したいと考えている。
|