2018 Fiscal Year Research-status Report
課題難易度の差異による脳内ネットワーク活動の変化-効率的学習環境の解明-
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16K01527
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Research Institution | Aino University |
Principal Investigator |
酒井 浩 藍野大学, 医療保健学部, 教授 (30362388)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 脳イメージング / 課題難易度 / ディフォルトモードネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度には健常若年者を対象としたfMRI実験を実施し,課題難易度と3つのネットワーク(中央実行ネットワーク(CEN),顕著性ネットワーク(SN),ディフォルトモードネットワーク(DMN))との関連を検討した。これらの実験方法は過去に測定したMRIデータを利用し,新たに標的部位をDMNの指標とされる内側前頭前野領域(MPFC),後部帯状回領域(PCC)に変更して課題難易度との関係を分析した。その結果,従来のPASATを使ったワーキングメモリー活動を検出するためのシークエンス実験データからDMN活動を抽出することができ,課題難易度と前頭前野内側部(MPFC)との相関が認められた。したがってCENおよびDMN双方の活動において課題難易度との相関が認められたことになる。具体的には課題難易度が高いほどCENおよびDMNの活動は大きくなるということが明らかとなった。しかし,ここで1つ問題が示唆された。それは過去の実験データに使用した健常若年者の偏差値帯が非常に高く,課題負荷が上昇しても安易にはあきらめや混乱の状態にはならかなった可能性があるという点であり,対象者が偏差値帯の低い健常若年者かあるいは高齢者であれば結果が異なる可能性が示唆された。このことから,次段階としては,過去の実験シークエンスを用いて,偏差値帯の低い健常若年者を対象とした実験を行い,前回の知見と比較することが必要と考えられたため,平成30年度は一部の実験を実施した。平成31年度はが偏差値帯の低い健常若年者の実験を完了し,偏差値帯の高い健常若年者との結果を比較することで,偏差値帯の違いで結果が異なるかどうかを明らかにしたいと考える。この結果は異なる脳特性をもった対象間では課題難易度とCENおよびDMNとの関係が異なるかどうかを示唆するうえで重要な意味を持つものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々は過去にPASATの課題難易度と背外側前頭前野(DLPFC)および角回を標的部位としたワーキングメモリー活動の賦活度との関係を健常学生を対象として実施したfMRI実験データを所有しており,平成29年度はこのデータを用いて,標的を内側前頭前野(MPFC)と後部帯状回(PCC)に変更し,再解析を行った。その結果,前回に確認したワーキングメモリーと同義と考えられる中央実行ネットワーク(CEN)のみならずディフォルトモードネットワーク(DMN)活動も課題難易度が高くなることで活動が大きくなることが明らかとなった。このことをふまえて,平成30年度は,健常高齢者を対象としたMRI実験を行う予定であったが,いくらかの問題が挙げられた。一つは前回に行った実験の対象者が偏差値帯の高い若年健常者であり,偏差値帯が低くなることによって結果が異なる可能性が示唆されたことであり,もう一つは前回行った実験シークエンスと全く同じ刺激,機材でfMRI実験を行うことが困難であり,これらの相違が結果に影響を及ぼす可能性であった。このことから平成30年度は従来用いていたPASATの刺激を一部修正したうえで偏差値帯の低い健常若年者を対象とした実験を行うことに変更し,一部の実験を完了している。平成31年度は健常若年者対象の残りの実験を完了し,異なる偏差値帯であることによる課題難易度とCEN,DMN活動との関係の相違を明らかにすることを目標としたい。また,可能な範囲で健常高齢者を対象とした実験を行い,健常若年者との相違を示唆できればと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
危惧される問題の一つはディフォルトモードネットワーク(DMM)用実験シークエンスを用いてDMMの活動を抽出した場合には,逆に抽出された中央実行ネットワーク(CEN)が本来の課題に際する活動であったと言えない可能性がある。この点において,CENを対象とした実験シークエンスにおいてDMM活動の抽出が可能となった点は大きな意味を持つ。 また,過去のデータで抽出されたデータをもとにしたDMN活動検出は可能となったが,これを次の実験データと対比させるためには刺激と機材が同じであることが必要であり,この要因から,平成30年度は健常若年者を対象とした実験を行った。平成31年度はこの実験の残りを完了し,間接的比較となるが偏差値帯の異なる群では課題難易度とCENおよびDMNの賦活との関連の法則性に相違があるかどうかを検討する。この実験はすでに進行しており,7月と8月に実験予約を入れ,対象者のリクルートもできているため,期限内に完了できる見込みである。一方で健常高齢者に関しては9月期の実験を予定しているが,測定場所である国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の都合により実験予定の確定が難航しているが,連携研究者の河内山隆紀氏の所属先でもあるため,河内山氏と連携しながら検証可能なデータ測定を行えるように努力する。
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Causes of Carryover |
2017年度後期,学科長に就任したことにより業務内容が変化し,量的にも顕著に増加した。また,本研究のターゲットとなる脳領域の抽出方法について,MRI撮像機関と再検討することとなり,過去のデータを使用した検証を行ったため,本実験のスタートそのものにも遅れが生じた。また,過去のデータを用いた検証結果では異なる群間との直接比較を行えないため2018年度には刺激の修正を行ったうえで測定場所が所有する現存のfMRI測定機器を使用した健常若年者を対象とする実験を一部行った。しかしながら,この実験では過去の実験とは異なり,比較的偏差値帯が低い健常若年者を対象とした実験であるため,今回実施する実験結果と過去のデータを間接的に比較することによって偏差値帯異なる両群間での傾向の相違を述べることができるものと考える。延長年度では偏差値帯の低い健常若年者対象の実験を完了し,9月期より高齢者を対象とする実験を行う予定である。現在健常若年者対象の実験は7月8月に予約済であり,対象者のリクルートも完了している。9月期以降の実験予定は測定先であるATRの予定が混雑しており,予定が確定していないが,連携研究者である河内山隆紀氏がATRの所属であるため,河内山氏と協力して円滑に実験を終え,成果を示したいと考えている。
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