2017 Fiscal Year Research-status Report
地方都市へのオリンピックレガシー:2012年ロンドンと2020年東京大会
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16K01703
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
白井 宏昌 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (40772033)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イギリスでの地方都市でのオリンピック・レガシー / 国内のオリンピック・レガシーに関する行政の取組 / オリンピックと地方創生 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究実績として、まず2012年大会におけるイギリスでの地方都市でのオリンピック・レガシーについて、イギリス政府および大会組織委員会、さらには地域行政が発行した刊行物を調査することを行った。イギリスでの現地調査では、ロンドン大学政治経済学院の図書館において、これらの出版物の調査を行った。また、国内の各都市の開発状況に詳しい学術関係者などから、2012年ロンドンオリンピックがイギリス国内の地方都市の都市空間に及ぼした影響などに関してヒアリングを行った。インタビューを通して、イギリス地方都市への物理的なオリンピック・レガシーは限定的だが、オリンピックを契機にクリエイティブ産業拠点の地理的分散に伴い、目に見えない形で地方都市に大きな影響があることが理解された。これらをもとに、オリンピックを契機としたイギリス国内におけるクリエイティブ産業の動向から、地方都市へのオリンピック・レガシーを考察する試みを行った。さらには、開催都市であるロンドンから地方というレガシー効果の流れだけでなく、それとは逆に地方のクリエイティブ産業がロンドンに集まってくる動向も確認できたことから、その経典であり、ロンドン市内の建築的なオリンピック・レガシーであるオリンピック・パーク内の旧国際放送センター(現Heareast)においても、現地でヒアリング調査等を行った。 また平成29年度では、日本国内において、地方都市がオリンピック・レガシーをどのように捉え、どのような長期的な政策を打ちだいしているかを、と東京都以外の46の都道府県の取り組みを網羅的に調査した。特にここではオリンピックと直接的なレガシーとなるうる「ホストタウン」などの取り組みと、観光産業の発展を前提にした都市開発などの間接的なレガシーへの取り組みを、それぞれどのようにおきなっているか、国内での地域的な差異を明らかにしつつ調査をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況として、本研究における学術的な位置づけを確認するための文献調査は概ね終了している。「オリンピック・レガシー」に関する既存研究や文献から、オリンピック研究におけるレガシー効果の把握の仕方、さらには本研究が対象としている開催都市以外へのオリンピック・レガシーへの視座を獲得できたと考えている。そして、そのケーススタディとして、2012年ロンドン大会での既存研究等(英語によるもの)にも多く参照することができた。そして、2020年東京大会におけるオリンピック・レガシーに関する文献に関しても精読し、現時点での論点等を整理した。また、日本の場合は、オリンピック・レガシーに関わる言説の多くが、「地方創生」に関わることから、現在の「地方創生」、あるいはその歴史的考察に関する文献から、本研究に関する有益な知見を得ることが出来たと考えている。 上記の文献調査に加え、これまで2012年ロンドン大会と2020年東京大会における、事例調査を行ってきた。ロンドン大会では、オリンピック・レガシーに関する行政や組織委員会が出版する刊行物とともに、現地の有識者へのインタビューを通じて、2012年以前および以降の取り組みを理解できたと考えている。また現地調査で、地方都市へのオリンピック・レガシーという課題が、それぞれの地方独自の問題としてとらえるべきでなく、国の産業構造の変化に伴う、人的資本の再編や、地方都市―開催都市(首都)の双方向的な課題となっていることなどを見出したことは、当研究の大きな発見であったと認識している。また、2020年東京大会における事例調査では、各都道府県での試みを、直接的・間接的レガシーという視点から整理したが、間接的なレガシーという点においては「地方創生」への取り組みが「観光政策」と深く結びつき、それを前提にした都市空間の再編構想が行われている実態が明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究に関しては、まずイギリスおよび国内の地方都市において補足のインタビュー調査を行うことを予定している。イギリス、日本国内ともにオリンピック大会に関わった(関わる)行政関係者から直接意見を伺い、行政による刊行物には現れてこない、顕著化しにくいレガシー政策への課題を浮き彫りにしたいと考えている。 また、本研究な重要なプロセスとして、今後2012年ロンドン大会と2020年東京大会の調査結果の比較を行う予定である。ロンドン大会と東京大会での計画段階での地方都市へのレガシー政策を比較することで、両大会において、都市イベントであるオリンピックが、どのように国レベルでの波及効果を計画していたか、その違いを明確にしていきたいと考えている。さらにはロンドン大会における、大会後の地方都市での実際のレガシー効果の調査結果を精査することにより、2020年を超えて、日本の地方都市にどのようなオリンピック・レガシーが残されているか予測をしていきたいとも考えている。 最後に本研究のまとめとして、調査結果を論文あるいは著書としてまとめたいと考えている。ここでは特に日本スポーツ社会学会などでの学術発表や論文投稿を考えている。この分野ではオリンピック・レガシーに関する学術研究は多数あるが、それを開催都市以外の地方都市での物理的な(建築あるいは都市空間に関する)影響を考察したものは少なく、貢献ができると考えている。そして、オリンピック・レガシーを地方創生さらには、日本の国土計画などマクロの視点と関連付けて論じた研究も少ないため、この分野に関しても新たな貢献ができると考えている。また現在オリンピックと都市というテーマで著書を執筆中であり、本研究の成果はその中にも反映させたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、イギリス国内での現地調査が当初予定した額より少ない交通費および宿泊費で遂行できたことと、日本国内での調査が、これまで文献調査が中心となり、現地調査をすべて遂行していない点にある。また、研究分担者とのやり取りもメールにて行うことも多く、旅費がかからなかった点も挙げられる。これらによって、研究予算に余裕ができたことから、イギリスおよび日本国内での現地調査をさらに進めたいと考えている。特にイギリスでの現地調査では、さらに調査すべき内容が確認されたため、平成30年度には残った予算にてさらにイギリスでの現地調査を行いたいと考えている。また、国内でもこれまで行政刊行物の文献調査がメインであったものを、平成30年度では、複数の地方都市での現地調査を行い、行政関係者にインタビューを行いたいと考えている。さらには、平成30年度は、本研究成果を論文としてまとめる必要があることから、研究協力者との実際の打合せも多くなり、それらの旅費が必要になると考えている。
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Research Products
(1 results)