2021 Fiscal Year Research-status Report
乳幼児期の象徴化を生みだす分離と言葉に関する臨床心理学的研究
Project/Area Number |
16K01867
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
黒川 嘉子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (40346094)
|
Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2023-03-31
|
Keywords | 乳幼児のことば / 移行対象 / 象徴化 / 発達障害 / プレイセラピー / 乳幼児心理臨床 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、言葉を話し、自身を物語り、他者とコミュニケーションをとるようになる過渡期にあらわれる乳幼児期特有のことばをとらえ、(1)分離のプロセスと言葉、(2)身体感覚をともなう言葉、(3)遊ぶことと話すこと、の3つの研究項目について検討している。 令和3年度は、これまでの研究データの総合的検討から特に言葉のもつ音の機能について検討した。乳幼児期の相互作用におけるコミュニオン調律(Stern,1985)や音の回路によって共振するsympathy(内海,2015)の重要性が明らかになり、意味の伝達や理解ではなく、内的体験の共有やただ共にあること(being)にかかわる言葉の機能が、乳幼児心理臨床や発達障害の心理臨床に有効であることが示された。 こうした観点は、乳幼児期特有のものとしての理解に留まらず、臨床実践において、verbalではないvocalなコミュニケーションの重要性(Sullivan,1954)に通底するところであり、発達障害の用語や診断名称を用いる際に生じる揺れ幅というテーマで考察した(黒川,2022)。 また、移行対象としての言葉は、「わたしのもの」という側面から、その子どもにだけ魔術的な力を発揮するが、養育者へのインタビューやプレイセラピーの事例研究を通し、体験を共有する関係性では、物の移行対象と同じように、家族等の中で大切な“ことば”となり、すでに用いなくなった後でも、「わたしたちのもの」として懐かしさなどの情緒的体験を伴い扱われていることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
延期になっていた調査を、オンラインを活用するなどして遂行しながらも、対面調査の困難さがあり、研究計画の変更が生じたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度に向けて、本研究の結果から学術的な意義を示すなかで、コロナ禍の影響についても検討していく。
|
Causes of Carryover |
初年度後期からの研究開始により、初年度の経費執行が少なく、その分を翌年度に繰り越して研究進捗状況に合わせて執行していた。その状況の中で、令和元年度より新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、予定していた調査の延期による謝金の執行、学会のオンライン開催による旅費の執行に予定変更が生じた。研究の進捗自体も対面調査を計画変更するなど遅れており、次年度使用額が生じた。最終年度に向け、データの整理等にかかわる謝金と研究成果をまとめるための文献図書費等を主に執行する。
|