2016 Fiscal Year Research-status Report
前駆体蛋白質の分子進化における品質管理機構の解明と分子設計への応用
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16K01925
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
日高 雄二 近畿大学, 理工学部, 教授 (70212165)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フォールディング / シャペロン / 分子進化 / ウログアニリン / 前駆体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、化学合成ペプチドを用いた立体構造形成スイッチング機構(品質管理機構)の解明に重きを置き、種々の化学合成ペプチドの立体構図形成反応の評価およびNMR法によるそれらペプチドの立体構造解析を行った。 1)2次構造の構造変化スイッチによる立体構造レベルでの品質管理機構の解明:3種類の長さの異なるヒト型プロウログアニリンのC末端ペプチドを化学合成し、その立体構造形成を種々の条件下で評価した。その結果、立体構造形成初期においてはN末端側に伸長したペプチドほど、ヘリックスの安定化により2型中間体が選択的に得られることを証明することができた。すなわち、前駆体の立体構造形成において、人型の場合は、重要な2型中間体を反応初期に形成することで、その後の正しい天然型への立体構造形成を制御、管理することを明らかにした。現在、そのNMR構造について最終の精密化を行っている。 2)分子進化への品質管理に対するスイッチング機構を調べるため、魚類ウログアニリンの短鎖ペプチドをヒト型と同様に調製し、それらの立体構造形成を調べた。その結果、やはり、反応初期に2型の中間体の形成が観察されたが、ヒト型のものほど顕著ではなかった。このことは分子進化において、ヒト型になるほど厳密な品質管理ができていることを示唆している。また、これまで、困難であったウナギプロウログアニリンを融合蛋白質として発現させ、その後、融合体部分を除去して最終的にウナギ型プロウログアニリンを得ることに成功した。 3)これまでにすでに得られているハイブリッド型の人工生理活性ペプチドの品質管理機構についても、化学合成ペプチドを用いて同様に検討した。その結果、上記の野生型のプロウログアニリンとハイブリッド体の立体構造形成は異なっていることが分かってきた。今後、その形成反応を詳細に調べ、上記との比較により立体構造制御をさらに解明したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)ヒト型プロウログアニリンの立体構造形成機構における品質管理スイッチング機構の役割についてほぼ明らかにすることができ、また、それらの立体構造についてもNMRによりほぼ決定することができた。また、この研究過程において、ある種の変異体ではベータシート構造のわずかな位置のずれが観察された。これはさらなる品質管理機構の存在を示唆しており、この点においては予想以上の成果であった。 2)魚類についてもほぼその品質管理の本質を見極めつつある。また、前駆体についてもすでに入手しており、平成29年度の研究への基盤を形成することができた。 3)ハイブリッド体については、当初の予想した結果と少し異なることが明らかになりつつある。即ち、デノボ設計したものは本来のプロウログアニリンとは異なった反応経路により立体構造が制御されており、さらなる研究の発展につなげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、当初の予定通り、順調に進んでおり、平成29年度について申請した計画書通りに研究を遂行する。即ち、1)プロウログアニリンの立体構造形成のスイッチング機構の解明および2)種々のペプチドホルモン前駆体タンパク質の立体構造およびプロセッシングと分子進化の相関に焦点を当てて研究を遂行する。 1)合成ペプチドのNMR構造についてはさらなる精密化を行う。また、平成28年度の、ウナギ由来プロウログアニリンについて遺伝子組換体を調製することに成功したため、その立体構造について解析を行う。また、そのプロセッシング部位に着目し、スイッチング機構の制御機構をさらに調べるため、その部位におけるアミノ酸置換体を化学合成し、立体構造形成を調べる。 また、上記のように、平成28年度の研究成果より、魚類由来のプロウログアニリン立体構造制御についての情報が得られつつあるため、鳥類、爬虫類、両生類についても遺伝子解析を進め、平成29年、30年度にかけて、それらの立体構造形成機構を調べる。本目的のため、それら種由来の遺伝子構築及び発現系の構築を行う。また、それらに含まれるプロセッシング部位に着目して、種々のペプチドを化学合成し、ヒト型とのスイッチング機構の比較を行い、分子進化における品質管理機構を解析する。 2)平成28年度に、本研究科課題のAPPおよびANP前駆体について一通りの解析を行うことができた。特に、APP前駆体に含まれるリンカー部位についてはSpring8での小角散乱測定による構造解析を順調に進めているところである。そこで、さらにAPPのベータ切断部位(プロセッシング部位)とその疾病との相関に対する情報を得るため、Sweden型糖の家族性アルツハイマー疾患の発症に関する変異体を作成し、その立体構造とプロセッシング戸の相関について構造的要因を詳細に調べる。
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Causes of Carryover |
本年度は、ペプチド合成とそのNMRによる構造解析を主軸として研究を行った。その結果、化学合成ペプチドの立体構造形成に関するより多くの発展的な知見が得られてきているため、まず、この段階での研究発表を行うことにした。即ち、分子進化に関する立体構造制御の研究発表を次年度に行うため、研究費を次年度に繰り越すことにした。 また、最も長いN末端延長ペプチドについてはこれまで遺伝子組換え体から酵素消化により調製してきたが、化学合成により調製することができるようになった。この点においても、遺伝子組み換え法よりも化学合成法のほうが安価であるため、研究費を節約することができた。また、化学合成ペプチドにより得られた知見を実際に前駆体タンパク質に適応するため、さらにいくつかの種の前駆体を調製する必要が出てきた。これについても、遺伝子組換え体の調製のため、予算を次年度に繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ヒト型により得られた成果と魚類化学合成ペプチドによリ得られた分子進化に対する研究成果の国際学会での報告・情報収取のため、繰越金を使用することにしている。局部的な2次構造形成とそのスイッチング機構の解明と分子進化の関連についてさらなる発展が期待される。本報告は米国で開催される第62回生物物理学会で行う予定である。 また、ヒト(哺乳類)と魚類との分子進化的距離は、まだ、かなり離れているため、より詳細に、その連携を調べる必要がある。即ち、研究をより加速度的に行うため、魚類だけでなく、両生類、爬虫類についても化学合成品だけでなく、遺伝子組換え体の調製を次年度から少しづつ進めていきたい。そのため、前駆体の遺伝子作成に関連した試薬類の購入に使用予定である。
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Research Products
(15 results)