2017 Fiscal Year Research-status Report
福建省の経済発展戦略における対台工作の位置づけと地方幹部の役割
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16K01997
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
下野 寿子 北九州市立大学, 外国語学部, 教授 (40294607)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 福建省 / 台湾 / 対台工作 / 両岸農業協力 / 両岸農産物貿易 / 省幹部 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は当初の研究計画では想定されなかった台湾での長期滞在が入ったため、現地調査や成果公表の面で一部を最終年度に持ち越さざるを得なかったが、想定していなかった資料入手やフィールドワーク実施の機会に得た。これまでの研究について政治経済的な議論を小括(研究ノート)し、政治経済の分析枠組みで説明しづらい地域固有の要因について文化人類学の先行研究を参照したり、中台双方で意見を聴くなどして問題解決にあたった。 前半は、台湾の中央研究院で資料収集やその整理を中心に研究を進めたり、台湾の農業関係者・機関や漁村で聞き取り調査を実施した。調査の中心は、中台関係や福建台湾関係に関する台湾側の見解、両岸農産物貿易の状況とその中での福建省の位置づけであった。成果の一部は2017年11月に台湾研究者が集う研究会で発表した。 平成28年度の現地調査の結果を踏まえて、福建省と台湾との文化的・社会的な関係について考察するため文化人類学の先行研究を参照した。ここでは、台湾海峡における漁民交流、漁村のインフラ整備、地方政府の役割について検討する上で大いに参考になる知見を得た。漁業分野では地縁血縁や言語の共通性といった文化的資産が両岸地域では依然として有効であることが確認されたが、都市部や省北部地域では台湾への関心が比較的低く、福建省の基層社会の多様性が確認された。細部は今後検討する。 年度末には台湾・広東・福建での聞き取りと文献調査を行なった。泉州や福州で研究者や台湾弁公室を訪問した他、広州のJETRO事務所で日系企業の意見を間接的に聞くことができた。 年度末に発表した研究ノート(2018年3月)は、福建省の経済発展枠組みを時系列的に紹介し、改革開放後の省内における経済開発の流れを整理した。この研究ノートを作成する過程で、福建には経済特区を除いて長期的に核となる経済開発枠組みが確立していないことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画の予定外で、半年間の台湾での在外研究が入ったために成果の公表が間に合わなかったものもあるが、平成30年度前半に学会等で発表できるように申請済みである。資料収集や現地調査は比較的順調に進んでいるが、断片的な情報が多いため、全体像の把握に至るように努めている。 平成28年度に試みたZhangzhouとZhangpu、泉州に関する調査は、この地域が中台関係の緊密な関係というスローガンの根拠を提供しているため、文化的社会的な台湾とのつながり、経済開発の制度的枠組み、地域の産業特性について検討した。省北部のPingtanについては、省の貧困対策の観点から新たな知見を得たほか、ここに設置された総合実験区に対する中台双方の見解の違いを確認した。 本研究の中で大きな課題となっていた「地方幹部の役割」については、地方幹部を個人レベルで調べるには大きな資料的制約があった。考察を重ねた結果、各地方幹部にそれぞれ焦点を当てることも必要であるが、経済政策における「官」の役割を議論することで新たな境地が拓く目途がついた。省幹部の中央での昇進についても情報収集を継続中である。課題を順調に解決できていること、最終年度に行なう課題も明確になっていること、研究の総括についても検討し始めていることから、研究計画は概ね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の総括について、経済発展枠組み(計画や制度)ごとに整理する方式を考えているため、それぞれの枠組みについて可能な限り情報の捕捉と充実を図っていく。まずはこれまで収集しながら活用できていなかった資料を整理する。また、インタビューの記録を再度点検し、解釈が適切か確認する。新たに公刊された統計資料や地誌を確認し、議論の捕捉に努める。 現時点で、本研究は二つの構図を用いて説明することを検討している。第一に、政治(中台統一の目標)、経済(両岸の経済活動)、社会文化(福建省南部と台湾との草の根のつながり)の三つのレベルの重層性に注目する構図である。第二に、中国政治の観点から、台湾への対応ならびに地域経済発展戦略の面でそれぞれ中央政府と地方政府の関係が描かれる構図である。二つの構図の関係性を明らかにすること、また、これらの構図の中で地方幹部がどのような役割を果たしているのかについて議論を深めていく。これらの結果を取りまとめ、成果の発表を行なう。 なお、今後の中国の政治的事情により、中国での現地調査や当事者への聞き取りが困難になったり、地方政府のウェブサイトへのアクセスが難しくなる可能性がある。その場合は、情報公開度が高い台湾での聞き取り調査や文献調査をより多く取り入れて対応する。
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Causes of Carryover |
福建省での現地調査で必要な補助人員を雇う予定であったが、これまでのところ、補助人員は訪問先が無償で用意してくれたため、経費がかからなかった。また、資料コピーについては、USBに保存できるものは印刷不要となったため、経費が抑えられた。
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Research Products
(1 results)