2017 Fiscal Year Research-status Report
生命科学・生物学とジェンダー理論との言説的相互作用に関する概念分析的検討
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16K02052
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
加藤 秀一 明治学院大学, 社会学部, 教授 (00247149)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジェンダーと生物学 / 科学社会学 / 科学哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
第二年度は、人間における性差の実態と意味をめぐる、一方のfeminism orientedなジェンダー研究と、他方の進化生物学および遺伝学・ゲノミクスの言説との間に生じてきたギャップを歴史的に跡づける作業を続行した。それによって再確認されたのは、両者間の議論は過去数十年間絶えず繰り返されてきたにもかかわらず、基本的な認識の齟齬が乗り越えられたとは言えず、未だなお深刻なコミュニケーション・ギャップが見られるということである。 なぜこのようなことが起こるのか。現時点ではまだ結論をまとめるには至らないが、少なくともこれは必ずしも社会的な性差別への態度をめぐる違いから生じている事態ではなく、むしろ全般的な学問観や科学観の違いに根ざす事態として把握されなければならないということである。より正確に言い換えれば、争点は、単独の科学という対象への態度というよりも、科学と呼ばれる営みの社会性をどのようにとらえるかという点にある。自然科学が生身の人間である科学者たちによって行われる営みであり、それゆえそこに社会的な利害関係や時代思潮の影響が関与しうるということを全く認める論者はほぼいない。立場が分かれるのは主に以下の2点をめぐってである。第一に、科学と価値との関係をどう捉えるか。第二に、科学という営みのプロセスではなく、その成果としての知見(理論を含む)に社会が与える影響をどのように評定するか。これらの論点をめぐって、フェミニストという同じ政治的立場を表明する者同士の間でもしばしば鋭く意見が対立し、また特にフェミニストであることを自称する女性科学者(生物学者)によってある種の戸惑いがしばしば表明されるのである。 こうした状況を俯瞰的に把握する作業は繰り返し行われる価値があり、海外には先行研究も多いが、日本の状況についての研究は少なく、本研究はその欠落を補うものとして意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では、計画第二年度である本年度においては、人文・社会科学系のジェンダー論と体質する対象として、脳神経科学をとりあげようと考えていた。しかしながら、初年度から継続していた進化生物学の検討に時間を取られており、またそれとの関連で、当初計画では第三年度の課題として想定していた遺伝学・ゲノミクスについての調査もある程度進めざるを得なかったため、脳神経科学の検討を行うには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年度における研究の中間的な成果は、現在執筆中(2018年夏ごろ刊行予定)の論文にまとめる予定である。現状では、上欄に記したとおり、フェミニズム/ジェンダー論と進化生物学・ゲノミクスとの関係についての調査にまだまだ時間がかかる見通しであり、脳神経科学というもう一つの主題をどこまで参照できるかは、正直なところ心許ない。今後の進捗状況次第では、当初計画からはやや戦線を縮小することになるが、まずは進化生物学・ゲノミクスについて資源をフルに使うことにし、脳神経科学の詳細な検討は先送りにすることも検討している。
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Causes of Carryover |
当初計画では参加予定だった海外における学会大会への参加が一身上の事情により叶わなくなったため、旅費として見込んでいた部分の執行額が少なくなり、その分を図書等にふり向けたものの、不可避的に残額が生じた。
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Research Products
(1 results)