2016 Fiscal Year Research-status Report
ロンドンオリンピックのレガシー戦略とクリエイティブシティ創出に関する観光学的研究
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16K02084
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
小澤 考人 東海大学, 観光学部, 准教授 (50631800)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 観光政策 / オリンピック / レガシー / クリエイティブシティ / 集客装置 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年東京五輪の開催に向けてわが国の観光政策に何ができるかという問題意識のもと、本研究では、先行モデルとしての2012年ロンドン大会を主題とし、レガシー研究の視点から、①五輪開催に伴う開催地域へのレガシーの評価と②観光政策への意義を明らかにする。以下は初年度における研究実績の概要である(拙著『基本観光学』第7章)。 第一に、ロンドン大会では五輪史上はじめて招致段階から開催後を構想するレガシー計画が提示されたが、現時点から振り返ると、「開催前/中/後」に応じて「環境への配慮⇒若者世代の社会参加⇒ロンドン東部の再開発」へと力点が変化しており、この点を明示的に分析・考察した。 第二に、メイン会場跡地が「オリンピコポリス」等として再編される新しい動向に着目しつつ、これを持続的な集客効果を担う集客装置としての側面から捉え直し、観光・ツーリズムとの接点を考察した。この動向は、博物館や大学の誘致など文化要素の活用に伴うクリエイティブシティの創出プロセスを意味し、選手村跡地の高層建築など住宅供給を軸とする旧レガシー計画に比して、ますます観光・ツーリズムの面から重要な意味をもつといえる。 第三に、五輪開催地ストラトフォード地区の現地調査を行い、アンケート調査の結果、近年ロンドン市内の居住希望エリア上位を獲得した選手村跡地の集合住宅がコミュニティの面からも充実し、パーク周辺エリアが近隣住民や訪れる人々にとって魅力的なものとして経験されている点を確認した。 また大会関係者のヒヤリングをもとに、2000年シドニー大会開催跡地の調査も行った。開催後の広大なスポーツ空間を住宅・ビジネス・イベント・商業空間など「多目的な集客都市」として再編を模索するシドニーの事例は、①周到なレガシー計画と②開催後の集客戦略を伴うテコ入れの必要性を示しており、ロンドン大会の重要な参照点であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に照らして、現時点において、おおむね順調に進捗しているといえる。その理由は、次のとおりである。本研究はレガシー研究の視点から、①ロンドン五輪開催に伴う開催地域へのレガシーの評価と②観光政策への意義を明らかにし、2020年東京五輪の開催に向けた観光政策・研究に寄与することをねらいとするものである。 その際、初年度の研究計画では、レガシー戦略がどのように実行に移されるのか、特にロンドン東部のメイン会場跡地が新たに「文化・教育特区」(通称オリンピコポリス)として再編されるなど、レガシー戦略の“再構築プロセス”を中心に分析する予定とした。この点については前述のとおり、資料の分析に加えて現地調査をもとに、観光・ツーリズム(をめぐる施策)との接点を中心に考察し、成果の公表を行うことができた(拙著『基本観光学』第7章を参照)。 また二年目の研究計画の一環として、オリンピックパークを舞台とした近隣住民や訪れる人々への調査を位置づけていたが、予備調査として先取りして実施することができた。そのほか関連調査として、ロンドン大会関係者へのヒヤリングにもとづき、2000年シドニー大会との関連性が明確となり、シドニー大会の開催跡地についてレガシー評価の観点から検討できたことも一定の成果といえる。 以上のように、初年度における研究計画に関しては、ロンドン東部ストラトフォード地区の現地調査をふまえ、一定の分析と考察、およびそれをふまえた研究成果を公表できていることから、「おおむね順調に進捗している」と自己評価した。 他方、①二年目の研究計画として位置づけているクリエイティブシティ(創造都市)論の理論的な整理をはじめ、②今なお変化を遂げているロンドン東部メイン会場エリアの現在進行形の動向についても、引き続き探究すべき課題として残されていることから、これらの点については次項で言及する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題としては、次のような方策を指摘できる。 第一に、二年目の研究課題として位置づけている既存のクリエイティブシティ(創造都市)論の理論的な整理を行い、観光・ツーリズム分野との接点を明確化する。すでにR・フロリダらによる一連の考察が存在するが、これを資本主義システムによる文化要素の活用戦略として捉え、特に集客装置としての側面から観光・ツーリズムとの接点を探る理論的作業については、いまだ十分になされていないことから、オリンピックを含むメガイベント論との関連も視野に入れ、今回取り組むべき課題とする。この作業をつうじて観光政策の一般的イメージとは異なり、具体的な空間エリアの集客装置を考慮に入れた空間戦略のモデルを考察し、広義の観光政策理論の一つとして整理できると考える。 第二に、初年度に現地調査を実施したロンドン東部ストラトフォード地区のメイン会場エリアについて、最新動向の追跡調査を行う必要がある。実際、レガシー戦略の再編とともに現在進行形でクリエイティブシティの創出プロセスともいうべき再開発が進む中、計画に照らした進捗状況の検証を行う必要がある。また合わせて、初年度に予備調査を行ったオリンピックパークでのアンケート調査を実施し、近隣住民や訪れる人々にとって「居住・訪問(集客)・ビジネス」の三要素で魅力的なレガシー(遺産)となっているのかを継続調査により検証する予定である。そのほか東ロンドン大学を拠点とする研究者の協力を得て、ニューハム地区自治体を中心にレガシー再編計画に関する担当者のインタビュー調査も行う予定である。 以上をふまえて二年目の課題としては、学会報告や講演のほか論文・著書による成果の公表を進めながら、三年目における研究成果の取りまとめ(『ロンドンオリンピックのレガシー戦略とクリエイティブシティ創出に関する観光学的研究』(仮題))に着手していく予定である。
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Causes of Carryover |
初年度において使用した金額が、研究目的において最も重要な位置を占めるロンドンでの調査研究に伴う滞在費のみであったことから、それにもとづく航空券と宿泊費を合わせた費用(\500182)を受領し、差額として残額(\99818)が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の残額については繰越すことにより、二年目の研究課題において同じく最も重要な位置を占めるロンドンでの調査研究に伴う費用に充てる予定である。なお二年目における調査研究の具体的な計画については、「今後の研究の推進方策」に記載したとおりである。
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