2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K02135
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
荻野 弘之 上智大学, 文学部, 教授 (20177158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐良土 茂樹 日本体育大学, 総合スポーツ科学研究センター, 研究員 (40711586)
辻 麻衣子 上智大学, 文学研究科, 研究員 (40780094)
中村 信隆 上智大学, 文学研究科, 研究員 (60823367)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アリストテレス / 倫理学 / 徳論 / ヘレニズム / 幸福 / フロネーシス / 幸福度の概念 / 自然主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
徳倫理学と幸福論との関係に主眼を置いた研究の第三年度としては、当初の予定通りほぼ順調に推移している。分担者が一人加わって、陣容もさらに充実した。 (1)アリストテレスを中心とした西洋古代の幸福論と徳倫理学の関係については、特に賢慮(フロネーシス)との関係について考察が深まった。研究代表者(荻野)によって2018年度は、一橋大学大学院国際戦略研究科における講演が活字化され書籍として刊行された(「ナレッジフォーラム講義録」)。 (2)古代哲学に特有の「生きられた哲学」の性格に関しては、東京都立高校の社会科教員の研修会に招かれて講演した記録が刊行された(「都倫研紀要」)。 (3)ストア派の幸福論の中核ともいえるエピクテトスに関する新しい訳の刊行は、準備が遅れており、2019年中には刊行される予定である。 (4)分担者(佐良土)によるコーチング理論への応用は、二つの論文で研究発表として結実した。従来の文献的古代哲学的研究にはない展開であり、東京オリンピックを目前にして、哲学以外の教育分野からも注目を呼んでいる。これは19年度においてさらに深まりを期待したい分野である。また新規参加の分担者(中村)によって、死刑と人間の尊厳の関係、恥のもつ倫理学的意味、など現代英米の倫理学と行為論の研究分野で新たに研究発表がなされた。これは幸福を構成する要素のうち、特に名誉や自己承認の欲求に関わるものであり、重要な成果に数えられる。古代末期のアウグスティヌスを中心としたキリスト教的幸福論の意味については前年度の『アカデミア派駁論』に続くカッシキアクム対話篇『至福の生』を中心とした研究を開始したが、18年度にはまだまとまらず、成果として公表されていない。19年度に本格的に取り組みたい課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
概要にも記したように、研究会の実施とその記録、研究上の基礎文献の蒐集と資料調査など、予定していた活動はほぼ順調に推移している。新しい成果としては、コーチングの哲学の理論的基盤の確立からさらに進んで、実質的な幸福実現への他者の介助という論点に関して新しい展開があり、隣接分野の研究者との意見交換や交流も進展した。また若い研究分担者1名が加わって、現代英米倫理学との接点がいくつか生まれたことも、予想以上の成果といえる。 平成30年度は、予定していた外国出張が諸般の事情で先送りになり、外国の研究者との交流という点では目立った進展が見られなかった。同時にグローバル状況の中で普遍的な幸福論がありうるのか、それとも文化と歴史に相対的な「厚い」(thick)な概念としての幸福を記述的な方向で考えるべきか、という新たな課題にも直面しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ストア派幸福論の中核をなすエピクテトス『提要』の新しい翻訳を19年度中に刊行する(代表者:荻野)。 (2)人間の尊厳を、侮辱や刑罰といった側面から思想史的・法哲学的に扱う研究を集大成する(分担者:中村)。 (3)コーチングの理論を深めることにより、チームスポーツをモデルとした徳倫理学の標準的理論を構想する。これは教育現場での実践とも密接に関係している(分担者:佐良土)。 (4)キケロにおける古典古代的な哲学と幸福の理念が、リベラル・アーツの形成と共にキリスト教教父の思想において、継承・展開・変容されていった思想史的な流れを歴史的に跡づけることを目指す。これが次年度における最大の課題になる。 基本的な研究の方法と実施時期、陣容に関しては特に大きな変化はない。
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外出張予定が繰り延べになったため、残額が生じた。 次年度において、夏季休暇中を利用した資料調査・研究打合せにするか、備品の整備に充当した方がよいか、進捗状況を勘案しながら6月までに決定したい。
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Research Products
(11 results)