2018 Fiscal Year Research-status Report
近代家族の解体から愛・性・家族の哲学的基盤の構築へ―変容する身体性を核として
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16K02152
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
宮野 真生子 福岡大学, 人文学部, 准教授 (40580163)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 共食 / 団らん / 愛 / 近代家族 / 偶然性 / 九鬼周造 / 和辻哲郎 / 田辺元 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究は応募申請書に記載したテーマの内、「近代日本思想史からの「愛」の再検討」と「新たな共生の理論的基盤」の2点をさらに深める方向で研究をおこなった。 1)「近代日本思想史からの「愛」の再検討」については、とくに家族の愛を強固にすると考えられてきた食卓・団らんという問題にターゲットを絞った。まず、近代以降の家族の食のあり方を①「どのように共に食べるのか」②「共に食べることに託された機能は何か」③「どこで共に食べるのか」の3点に分け、歴史的に分析したうえで、現在の食とつながりの位置関係、食に託されたイメージと家族の関係について分析した。その成果はシンポジウム「≪空間感覚≫の変容」において「食の空間とつながりの変容ー共に食べるということー」と題して発表をおこなった。 2)「新たな共生の理論的基盤」の研究としては、申請者がこれまで研究してきた九鬼周造の哲学をまとめる形で学位論文(『個体性と邂逅の倫理ー九鬼哲学の射程』、大阪大学大学院人間科学研究科提出)を執筆した。学位論文は二部構成となっており、第一部「存在論理学としての九鬼哲学」は、九鬼が自らの思索を練り上げる際に参照した西洋の哲学者からの影響関係を分析することで、偶然性を中心とする九鬼独自の「存在論理学/生の論理学」が成立したプロセスを明らかにし、現実を構成する様相論理のあり方と、様相論理を経由した存在一般への道を論じた。さらに第二部「偶然を生きる倫理を目指して」では、九鬼が存在論理学の先で目指した形而上学の形と、偶然性を生きる実存と倫理の問題を、田辺元・和辻哲郎と比較することで、偶然性を生きる個体の「社会性」とは何かを問い、偶然を抱える個が共生するための基盤を探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
個人でおこなう研究としては、申請書にあげた近代日本哲学に基づき共生の理論的基盤を構築することは学位論文をもってほぼ達成できたと考えている。また、近代日本の女性作家から見る思想史に関しても、『青鞜』の研究を中心に発表をおこない、論文も投稿することである程度の成果を得ている。ただし、森崎和江に関してはいまだ調査段階にとどまっており、森崎を専門とする研究者との連携を現在模索しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度実施する予定だった性と家族をめぐるワークショップを開催し、とくにポストフォーディズムにおける女性の結婚と労働の関係を検討することで、シェアとケアのあいだをつなぐ新しい共生の形をさぐっていく。その際、家族のオンライン化や性のVR化といった問題にも取り組んでいきたい。また、森崎和江の思想的検討を深めるため、福岡を中心に活動している森崎和江の研究者と意見交換をする場を作っていく予定である。
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Causes of Carryover |
前年度に開催予定であったワークショップが講師の都合で延期になり、その分の予算が余ったため。本年度すみやかにワークショップを開催する。
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