2019 Fiscal Year Research-status Report
戦前期における大本教と道院・紅卍字会と朝鮮新宗教団体との連合運動に関する研究
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16K02189
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐々 充昭 立命館大学, 文学部, 教授 (50411137)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 宗教連合運動 / 道院・紅卍字会 / 大本教 / 人類愛善会 / 出口王仁三郎 / 万教同根 / 満州国 / 朝鮮道院 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、過年度に収集した資料をもとに、大本教と道院・紅卍字会がどのようにして提携関係を持ったのか、その経緯と理由について考察した論文を発表した(「大本教と道院・紅卍字会との提携-宗教連合運動に内包された政治的含意」『立命館文学』第667号)。当時の中国において、日本側は国際法上、中国人に対する布教活動を行うことができなかった。そのために大本教を率いた出口王仁三郎は、道院・紅卍字会の提携団体として中国内における宗教活動を行うことができる立場を獲得しようとした。一方、道院・紅卍字会側も、帝国日本による中国への軍事侵攻という時代状況の中で、既存の権益を維持・保全するために大本教と連携を図ろうとした。両教団の提携は、1920年代から30年代における東アジアの複雑な政治情勢の中で、教団組織の維持あるいは拡大という実利的な利害が合致したために可能となったものであることを明らかにした。 また出口王仁三郎が著した大本教の根本経典である『霊界物語』(全81巻)に関して、「万教同根」思想による「諸宗教一致」について描かれている場面について一部フィールド調査を行った。 その他、植民地期朝鮮において大本教が行った活動に関する資料収集を行った。人類愛善会の朝鮮支部、人類愛善会に所属した朝鮮人会員と普天教・侍天教・檀君教との関係を示す資料、1935年に設立された朝鮮道院に所属した会員たちの記録(通信録、日記、回想録)のほか、戦前期に満州国で発行された道院・紅卍字会および大本教・人類愛善会との関係を示す資料を収集することができた。さらに、串田久治他編『天変地異はどう語られてきたか-中国・日本・朝鮮・東南アジア』(東方書店)の中に、朝鮮新宗教が発生する信仰的基盤となった朝鮮王朝の鄭鑑録信仰に関する論文(「朝鮮における天変地異と予言-讖緯書『鄭鑑録』に描かれたユートピア)を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は中国や台湾でのフィールド調査を行う予定であったが、ちょうど年度末の時期に新型コロナウィルスの感染拡大という事態が発生したために、実施することができなかった。そのために、当初の研究計画を変更し、国内において資料収集と論文執筆を中心に研究を進めた。 これまでの資料調査によって、以下の事実が明らかとなった。すなわち、大本教の出口王仁三郎は1920年代後半から中国東北部に「明光国」という独立国を建てる計画をもち、道院・紅卍字会の人脈を通じて宣統帝溥儀を擁立しようと画策した。また1931年満州事変が勃発する前後に、出口王仁三郎は内田良平・頭山満らと連動して、中国東北部における道院・紅卍字会の会員を満州国独立に賛同するように背後で懐柔する運動を展開した。さらに、満州国の道院・紅卍字会と大本教の外郭団体である人類愛善会の満州支部・朝鮮支部の支援のもとに、1935年に朝鮮道院が設立された。その際、旧韓末から李王室の外戚長(純宗妃の父である海豊府院君尹沢栄の兄)として宮中で権勢を誇った親日貴族の尹徳栄(1873~1940)が中心人物となった。朝鮮道院には、侍天教・普天教・檀君教(大イ宗教から分派した鄭薫模を教主とする教団)など内田良平の率いる黒龍会と関係の深い新宗教教団の信徒たちが多数入会した。 今年度までに達成した資料調査の成果をもとに、次年度の研究最終年度では朝鮮道院設立の経緯を明らかにする論文を執筆して、大本教と道院・紅卍字会との宗教連合運動が「アジア主義」の名の下に、日本による満州国支配を宗教的次元で下支えする役割を果たした事実を明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は研究最終年度の予定であった。しかし、年度末に発生した新型コロナウィルス感染拡大の影響で海外渡航が困難となり、当初の計画通りに研究を遂行することができなかった。来年度は、過年度において行うことができなかった海外でのフィールド調査を行う予定であるが、新型コロナウィルス事態の収束が長引き、海外での調査が困難となることが予想される。その場合は、過年度までに収集した資料を総整理しながら、研究の成果を論文にまとめて公刊する。 今年度までの調査によって、大本教と道院・紅卍字会との宗教連合運動が、1930年代前半における満州国独立運動と密接に関連して行われたことが明らかとなった。その際、以下のような事実を新たに見出した。すなわち、国民党政府から離脱して満州国独立に加担した地方有力者のうち、吉林の煕洽、奉天の袁金鎧・臧式毅・于冲漢、兆南の張海鵬、哈爾賓(ハルビン)の張景恵、熱河の湯玉麟らは、道院・紅卍字会の会員であった。彼らは満州国政府の中で重要な地位を占める官僚・軍人となっていくが、その一方で、道院・紅卍字会と提携関係をもった大本教の人類愛善会にも所属して、日本軍部との関係を深めていった。 以上のような調査結果をもとに、研究最終年度である来年度は、朝鮮道院設立の経緯を明らかにする論文とあわせて、満州国政府に参画した道院・紅卍字会の会員の動向について考察した論文を公刊する。それらの論文を通じて、戦前期日本で唱導された「アジア主義」思想と関連付けながら、大本教と道院・紅卍字会との間で展開された宗教連合運動の全貌について明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 本研究を開始した初年度に、研究代表者の体調不良によって、当初の研究計画を変更せざるを得なくなった。この初年度に執行できなかった研究費を次年度以降に持ち越してきた。しかし、今年度はまた新型コロナウィルスの感染拡大という事態が発生したために、当初の計画通りに研究を遂行することができなかった。そのために、結果として旅費および現地での協力者に対する謝礼金などに差額が生じた。 (使用計画) 次年度において、当初予定していて実施できなかった現地調査や資料調査を行う。研究最終年度である次年度は、これまで収集してきた資料整理のために当初計画していた謝礼金を支出する予定である。
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Research Products
(2 results)