2018 Fiscal Year Research-status Report
隠喩としての発達障害 ―近代性の精神分析学的・精神病理学的研究
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16K02220
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Research Institution | Kyoto Koka Women's University |
Principal Investigator |
長田 陽一 京都光華女子大学, 健康科学部, 教授 (20367957)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 発達障害 / メタファー |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の精神障害(疾患)は、広義の退行(獲得した機能や能力の喪失・解体)として理解されてきた。発達論の観点からは、精神障害は一般的な潜在性であり、進歩・進化を旨とする発達概念につねにつきまとう代価のようなものであった。しかし発達障害の概念は、発達そのものの欠損ないし多様性を示唆することで、精神障害のイメージや「障害」全般に関する考え方を変容させつつある。 こうした問題意識のもとに、近代以降のテクノロジーや科学の発展に依拠する進歩主義や進歩史観、健康のイデア化や歴史の黙示録的思想、また優生思想(日本の優生保護法、ナチスのT4作戦やホロコースト、出世前診断、ゲノム解析)などの思想的潮流について、文献学的な調査を行った。成果は今年度中にまとめることができず、次年度に持ち越しとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「発達」や「障害」の概念における、近代以降の目的論的な人間観の影響について検討を行っている。それぞれの隠喩(メタファー)は、近現代人の価値観(人間主義的、個人主義的、合理主義的、あるいはロマン主義的)と密接に関連している。しかし、近現代人の価値観を客観視する際に、より広範囲な進化の視点がどうしても必要であり、これをこれまでの研究と繋ぎ合わせるための新しい座標軸を模索しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
発達障害を隠喩、すなわちイメージや情動を産出する一つの概念装置と捉える観点を提示し、これを思想史的かつ精神分析学的・精神病理学的に検討する。これにより、提起されて半世紀程のこの新しい概念が、現代において近代性(人間主義、合理主義、個人主義)を暗黙のうちに補強する構造と機能を明らかにし、同時にそれを内破する可能性を考察する。計画している具体的な研究項目は、(1)「発達」の概念、(2)「障害」の変容、(3)コミュニケーションの問題、の3つである。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた電子機器等に関して、研究の進捗状況を鑑み次年度以降に変更したため。
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