2016 Fiscal Year Research-status Report
芸術と日常生活の融合に関する戦後史研究:消費文化の視点から
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16K02231
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
加藤 有希子 埼玉大学, 基盤教育研究センター, 准教授 (20609151)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 芸術と生活の融合 / さいたまトリエンナーレ / バリアフリー / 芸術祭ボランティア / 関係性の美学 / 現代アート |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「芸術と生活の融合の戦後史研究」という課題に対して、1960年代のフルクサスやカウンターカルチャーの文献を収集し、読み始めていたが、出版物としてまず成果を出したのは、さいたまトリエンナーレ2016の芸術と生活の融合の事例や、障害者のバリアフリーアートの試みについてであった。 さいたまトリエンナーレについては、国際美学会の年報で、展覧会レヴューを上梓した(Yukiko KATO, “Silent Radicals: Report on The Saitama Triennial 2016, Japan,” International Association for Aesthetics Newsletter, Volume 48 December 2016, pp.9-11.) また同じくさいたまトリエンナーレに関しては会場ヴォランティアの方々に現代アートの意識調査を統計的に行い、現在のアートシーンで、現代アートがどのような期待を受けているのかを浮き彫りにした。美学に社会学的研究を導入した新しい研究である。(加藤有希子「今、私たちはアートに何を求めているのか――さいたまトリエンナーレ2016サポーターアンケートを軸に考える」埼玉大学紀要(教養学部)第52巻第2号、2017年3月31日、107-120頁。) また、その他の成果としては、芸術と障害者の生活が協同関係にある場面に焦点を当て、(加藤有希子「障害者、補助機器、バリアフリー・・・そしてアート」、立命館大学生存学研究センター監修・渡辺克典編『知のフロンティア――生存をめぐる研究の現場』ハーベスト社、2017年3月28日、74-75頁。)を上梓した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、さいたまトリエンナーレや、医療現場のバリアフリーなど、もっとも現代的な問題に取り組むことができた。当初はそれはあとまわしにする予定であったが、実際には2016年にさいたまトリエンナーレが開かれたことなどにより、時代の流れが、新しい美術の研究を求めているようであった。今後は1960年代からの古い文献、外国語文献も怠ることなく読み、今年のような現代研究の背景として、より深い思想的考察をできるといいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨年度に引き続き、さいたまトリエンナーレに類する新しい芸術祭の動向、とりわけ会場ヴォランティアの動向を知ることに努めたい。それは無償でアートシーンにかかわるもっとも先鋭的な「期待の地平」をもっている人々の芸術観を知ることであり、今後のアートの動向をもっとも的確に知ることになるからである。具体的にはヨコハマ・トリエンナーレ、札幌国際芸術祭、北アルプス国際芸術祭、AFFなどの芸術団体で、「現代アートに何を期待しますか」などのアンケートを行っていく。また私の芸術学の授業をとっている学生にアンケートを行い、学生の意識調査をすることも目的である。
それらのアンケートを通じて、カント以来の無関心性の美学から生じている唯美主義的な美術観が、近年どう崩れてきているのかを哲学的、理論的に考察していきたい。また1990年代の関係性に美学が登場して以来、人的資本を重視する新しい美学が多く出てきており、それに関する著作も多数あるため、順調に読み進め、理論的に層を厚くしていきたい。
2017年度はミュンスター彫刻プロジェクト、カッセルのドクメンタ14、ヴェネツィアビエンナーレにも出かけ、海外と日本の芸術祭の違いも明らかにしていかねばならない。
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