2017 Fiscal Year Research-status Report
芸術と日常生活の融合に関する戦後史研究:消費文化の視点から
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16K02231
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
加藤 有希子 埼玉大学, 教育機構, 准教授 (20609151)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 芸術祭 / 芸術の無関心性 / VUCA / 経済活性化 / 政治的美術 / 地方創生 |
Outline of Annual Research Achievements |
芸術と生活の融合に関する戦後史研究ということで、平成29年度は海外の芸術祭の調査を行った。具体的には夏にドイツのミュンスター彫刻プロジェクト、カッセルのドクメンタ14、イタリアのヴェネツィア・ビエンナーレへの現地調査をした。そしてその結果は、論文「芸術祭の時代――政治か経済か、変わる芸術の役割」にまとめた。これを慶應義塾大学美学美術史専攻の三田芸術学会の学会誌『芸術学』に平成29年10月に投稿した。翌3月に査読が通り、現在入稿済みで、出版を待っている段階である。 この論文では、経済的なモチベーションを基軸にする日本の芸術祭と、政治的なモチベーションを基軸にするヨーロッパの芸術祭との比較を行った。日本の芸術祭は越後妻有や瀬戸内国際芸術祭のように地方創生型のものが最も個性を発揮しており、それゆえ開催地の経済活性化が最大の課題となる。一方、移民を多く受け入れているヨーロッパは、政治的アイデンティティが個人の在り方を決定づけるため、政治的関心を引く作品が多い。とりわけ今回のドクメンタはその最たる例であった。しかし経済、政治、いずれにしても、それはカント以来の近代的な芸術観を覆すものである。カントは「無関心性」の美学で名高いが、経済や政治に終始する昨今の芸術祭は、生活関心に直結し、さながら昨今の自己啓発ブームすら思わせる「勇気づけ」の行為にあふれている。例えば、一般人がアーティストの活動に参加したり、アーティストが一般人が自信をもてるようななぐさめの言葉を送ったりする。VUCAと呼ばれる先の見えない不安定な世の中で、昨今の芸術は生活関心に直結し、私たちの生きる道筋を照らすともしびとなっている。それはブルデューがディスタンクシオンとよぶ差異化や、ダントーがアートワールドと規定した分離も瓦解させる動きである。本論ではそのことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
査読の関係で出版が遅れているが、論文の執筆は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
芸術と生活の融合という観点から言えば、日本国内の芸術祭は類似するものが多く、また数も多数にわたり、実のある議論をするには調査対象をしぼりこむ必要がある。また芸術と生活の融合が進み(それが本研究の課題であるが)、芸術そのものの作品としての強度が落ちていることは否定しえず、今後に二年間は若干、研究対象を変えていく必要性を感じている。 芸術と生活の融合の戦後史研究という点では、目下、存命の抽象画家ブリジット・ライリーの病院装飾を新たに研究対象にしている。これに関しては平成30年9月に調査を行う予定である。
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Research Products
(1 results)