2017 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教文化における神聖空間の形成と図像記憶をめぐる歴史人類学的研究
Project/Area Number |
16K02275
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
水野 千依 青山学院大学, 文学部, 教授 (40330055)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 聖像 / 記憶術 / ダイアグラム / フラ・アンジェリコ / ポワティエのペトルス / 視覚的注釈図 / イメージ人類学 / 儀礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一の課題、神聖空間の形成と聖像儀礼については、昨年度、シンポジウム「〈祈ること〉と〈見ること〉」(成城大学)で発表した講演内容をさらに掘り下げた論が登壇者との共著として2018年に三元社より刊行される予定であり、その原稿を完成させた。さらに、春にパリ、フィレンツェ、ピサ、ルッカ、インプルネータにて作品調査・資料収集を行うことができた。 第二の課題、アルプス周辺に残存するキリスト教の特異な図像の残存と記憶については、キリスト像のアイデンティティの揺らぎや多重性という点で問題を共有する人類学者カルロ・セヴェーリの『キマイラの原理――記憶の人類学』を翻訳し、白水社より刊行した。この書自体は、キリスト教の表象については北米先住民やヒスパニック系移民の事例を扱っているため地域や文化的背景は異なるが、方法論や解釈の仕方という点で本課題にとって大変示唆深い。翻訳を完成させただけでなく、「訳者解題」においては、近年のイメージをめぐる人類学の状況や、「存在論的転回」と称される人類学における新たな潮流についても紹介した。また、セヴェーリが近年、「物質に人格を見る」現象を人類学的に解釈する論をあらたに展開しており、この問題系をイメージ論においてさらに掘り下げていく必要性についても論じた。 さらに、西洋中世に遡る視覚的注釈図と記憶術的イメージの問題については、「叡智の櫃(arca sapientiae)――フラ・アンジェリコ作「銀器収納棚」装飾にみる記憶術的概念図と祈念――」を共著『ヨーロッパ中世美術論集 祈念像』(竹林舎、2018年刊行予定)に寄稿した。古代の修辞学に淵源をもつ建築的記憶術が14世紀頃に復興する以前に、中世において流布していた平面的なダイアグラムによる記憶術をもちいた祈念や瞑想の在り方と、ルネサンスにおけるその残存を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルプス周辺の「主日のキリスト」については、図像自体がアクセスの困難な地域に存在することが多く、まとまった現地調査を行う時間的余裕がなかったが、その他の研究課題については、ほぼ順調に成果を公開している。
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Strategy for Future Research Activity |
第一の課題については、トスカーナ地方の奇跡像や聖像儀礼についての事例をさらに収集・調査し、体系だった研究成果を導く。また、今年度、翻訳に携わったセヴェーリ『キマイラの原理』、および近年の彼の研究をふまえ、本来、生命をもたない物質たるイメージが生動化し、人格を帯びる現象に焦点を当て、無機的なものの行為主体性を人類学的に問い直す。この問題系に関しては、アルフレッド・ジェル、ホルスト・ブレーデカンプなどの研究も引き続き参照しながら、イメージ論の可能性を再考する。 アルプス周辺に残る「主日のキリスト」については、現地調査を行うとともに、記憶術という観点も加味して解釈を試みる。 中世以降の視覚的注釈図と記憶術の問題については、一定の成果を論文としてまとめたが、未だ、ポワティエのペトルスの「系図」やヨハンネス・メテンシスの「神学の鏡」をはじめ、記憶術的ダイアグラムに関わる写本等の調査は十分なものではないため、関連写本と画像データを網羅的に収集し、「心に絵を描く」祈念の在り方と図像の問題を掘り下げたい。さらに、古代の建築的記憶術がルネサンスに復興されて息づくが、具体的な造形作例のなかにその影響を検証する課題も残されている。 上記の研究をもとに、『記憶の櫃』(仮題)という単著をまとめる予定である、
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Causes of Carryover |
図像データの整理、翻訳作業における索引・文献表作成等で「人件費・謝金」を予定していたが、自身ですべて行い、委託する必要がなかったため使用に至らなかった。次年度は、海外の研究雑誌に論文を投稿するための翻訳校閲費用として使用したいと考えている。
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