2016 Fiscal Year Research-status Report
タイム・ベースド・メディアの保存と修復―東京藝術大学から生まれる卒業制作
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16K02304
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
平 諭一郎 東京藝術大学, 社会連携センター, 講師 (10582819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
薩摩 雅登 東京藝術大学, 大学美術館, 教授 (80272657)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メディア・アート / 保存 / 修復 / 修理 / 現代美術 / タイム・ベースド・メディア / 卒業制作 / 自画像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東京藝術大学大学美術館が収蔵する卒業制作品のうち、時間を計測基準にした新たな芸術作品(タイム・ベースド・メディア、メディア・アート、インスタレーション等)の悉皆調査、作品制作、長期保存計画、修復、展示までを一貫して実施し、代替メディアへの移行を含めた体系的な保存・修復理念の確立を目指すものである。 平成28年度は、卒業制作品約1万点の中から自画像と優秀卒業制作品のうち、時間を計測基準にした新たな芸術作品に該当する自画像作品の選別と悉皆調査をおこない、比較的新しいメディアから優先的に素材や構成、保存状態の確認ならびにトリアージ(修復優先度選別)を実施した。作品は、記録媒体(磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等)、再現媒体(PC、映写機、ビデオデッキ、プロジェクター等)、表示媒体(ブラウン管テレビ、液晶モニター、スクリーン等)、資料(指示書、設置方法、展示記録等)の要素に分解して、それぞれの保存状態を詳細に記録するとともに、再生(表示)確認をおこなった。作品に用いられた記録媒体は様々であり、DVテープ、VHS、ベータカム、Hi8、ハードディスクドライブ、MOディスク、CD-R、DVD-R、USBメモリ、SDメモリーカードの使用が確認され、データの保存形式を勘案しながらデータ移行の検討を始めた。 また、平成28 年9 月に開催された国際会議:IIC 2016 Los Angeles Congressをはじめ、国内外の先行研究の調査や現場視察をおこなうとともに、東京藝術大学社会連携センター紀要「bulletin」ならびに文化財保存修復学会にて研究成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)作品調査…東京藝術大学大学美術館が収蔵する卒業制作品のうち、時間を計測基準にした新たな芸術作品(タイム・ベースド・メディア、メディア・アート、インスタレーション等)に該当する106点を選定し、その中から自画像作品の悉皆調査をおこない、比較的新しいメディアから優先的にトリアージ(修復優先度選別)を実施した。平成28年度は、自画像作品28点の素材や構成、保存状態の確認など詳細な調査が完了した。 (2)新規作品制作…保存や修復が最も困難であると考えられるタイム・ベースド・メディアを新規に制作するため、作品の素材、形状、重量、サイズ、ジャンルなどを検討し、特定の作品を対象に部分的に少しずつ介入(修復)していく実験(作品制作)の方向性を固めた。 (3)保存・修復計画の立案…平成28 年9 月に開催された国際会議:IIC 2016 Los Angeles Congressと、同年6月にアムステルダム国立美術館修復工房、ボイマンス美術館にて、先行研究のヒアリング調査、現場視察、各専門家との意見交換をおこなった。 (4)成果発表…東京藝術大学社会連携センター紀要「bulletin」ならびに文化財保存修復学会にて研究成果を発表し、体系的な保存・修復理念の確立を目指していく。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)作品調査…東京藝術大学大学美術館が収蔵する卒業制作品のうち、自画像を除く優秀卒業制作品の選別と悉皆調査をおこない、比較的新しいメディアから優先的に素材や構成、保存状態の確認ならびにトリアージ(修復優先度選別)を実施する。 (2)新規作品制作…特定の作品を対象に部分的に少しずつ介入(修復)していく実験(作品制作)を実施する。さらに介入結果の作品を鑑賞者に提示し、作品から得られる体験が保存されているかをひとつずつ検証しながら、同一性特異点(これ以上変更すると本来の作品ではなくなるという点)の存在を明らかにする。また、不定形で時間を伴うタイム・ベースド・メディアを、時間軸と空間軸を伴い且つ作品を体験することを含めて記録するため、VRやARを用いて仮想的に作品を体験するシミュレーションシステムを構築し、あらゆるタイム・ベースド・メディアの総合的な保存手段を開発する。 (3)保存・修復計画の立案…制作の全過程アーカイヴと、海外の先進的な保存や修復事例の調査・分析を踏まえ、特異点の存在(位置)を客観的に明らかにし、容易に複製され得るタイム・ベースド・メディアの修復方法と保存理念の原案をまとめる。 (4)展覧会での成果発表を通じた修復の検証…平成30年秋に研究成果の発表と検証を兼ねた展覧会形式での発表を東京藝術大学大学美術館で開催する。展覧会形式での成果発表では、作品の修復前と修復後を鑑賞者に提示し、作品から得られる体験が保存されているかを検証し、タイム・ベースド・メディアの物質的、概念的同一性が保存される修復を目指す。研究成果については、多機能型SNSおよび各研究者が研究成果を発信するとともに、東京藝術大学社会連携センター発行の紀要、研究報告書の発刊、文化財保存修復学会での発表をおこなう。
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Causes of Carryover |
研究遂行に関わる経費の無駄を省くとともに、平成30年度に研究成果の発表と検証を兼ねた展覧会形式での発表を東京藝術大学大学美術館で開催するための研究費を確保したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
展覧会形式での研究成果発表に関わる制作費、展示費、報告書(図書)発行費に使用する。
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