2021 Fiscal Year Research-status Report
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16K02329
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
森 覚 大正大学, その他部局等, 非常勤講師 (00646218)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近代仏教 / はなまつり / 児童と宗教 / 大淵小華 / 児童伝道教材 / 仏教日曜学校 / 地方寺院 / 15年戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、引き続き近現代日本の仏教絵本で表現されたブッダのイメージを考察すると共に、ブッダのイメージを生成するメディアとしての仏教絵本へ着目する新たな問題提起を行った。 「近現代日本の仏教絵本におけるブッダのイメージ研究」は、当初から近現代日本の仏教絵本に見られる宗教表現を手がかりとして、同時代の思想や価値観などを組み入れながら変容していくブッダのイメージを考察し、各時代に共有された仏教表象がいかなるものであったかを考察してきた。ここでいう仏教表象は、メディアを用いて仏教に関するイメージを形象化する行為であり、それにより生じる表現物のことを指す。一方で、メディアを通して形象化される仏教の表現物に接した人間がそれを記憶し、意識のなかで再び想起するイメージもまた、仏教表象と呼ばれるものになる。 このような人間の意識とメディアを往還する仏教表象は、メディアを用いて表現し、メディアから受容する行為を繰り返すことで、諸個人の捉え方の違いにより少しずつ変容していき、新たな仏教表象が生み出されていく。そうした時代ごとに人々の解釈や願望が追加され、あるいは、古い解釈が削除されることで変化していくブッダのイメージを探るのが本研究の主な目的になる。 こうした研究テーマの設定は、ジャック・ザイプスの再話論やハンス・ベルティングのイメージ人類学などをはじめ、比較文化学や表象文化論の先行研究に従うものであり、それを踏まえて本課題では、ブッダのメディア表現を主な考察対象としてきた。ブッダの表現が人々に知覚されるべく形象化されるためには、意識のなかのイメージを物質化する支持体としてのメディアが機能する働きも重要である。 そこで本年度は、メディアとしての仏教絵本に視点を転じ、近現代日本の絵本がいつの時期から、またどのような出来事を契機として、ブッダを表現するようになったのかについて論究していくことにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、メディアで表現されるブッダのイメージを読み解くと同時に、考察対象である仏教絵本の収集を行なっている。仏教絵本をはじめとする児童伝道教材は、これまで仏教日曜学校、仏教系幼稚園や保育園、仏教寺院などの場で用いられたと考えられるが、宗教に関わる資料という性質から、一般の公共図書館や資料館などで保存収蔵の対象にされにくい事情があった。このため、仏教絵本の収集は、本課題でも必要不可欠な作業プロセスとなっており、全国各地で資料調査を継続してきた経緯がある。しかし前年度に引き続き、令和3年度もまた、新型コロナウイルス感染拡大により、都道府県を越境した調査が難しい状況になったことから、再度、研究計画の変更を迫られた。 その状況下で進展した研究成果としては、科研費成果として令和2年に勉誠出版より出版した森 覚編『メディアのなか仏教─近現代の仏教的人間像』に対する碧海寿広氏の書評(『近代仏教』第28号、日本近代仏教史研究会、5月31日掲載)があげられる。 また、12月4日には、第30回仏教文化学会学術大会で、ブッダを描く布教伝道メディアとしての仏教絵本が現れた経緯に言及する「はなまつりと仏教絵本」という研究発表を行った。これまで本課題の資料調査で確認している最古の仏教絵本として、大正12年に真宗各派協和会が制作した『親鸞聖人ヱバナシ』がある。この作品は、立教開宗700年、ならびに親鸞生誕750年を記念して制作されたことが判明しているものの、児童伝道を目的とする仏教絵本が制作されはじめた動機については、未だ不明な点が多い。 そこで、同じく大正12年に浄土真宗大谷派の美濃教学会と京都の法藏館が刊行した小冊子絵本『おしやかさま』を事例として、仏教日曜学校機関誌『児童と宗教』など、同時代の資料を手がかりとしながら、子どもの年中行事として制度化される「はなまつり」と伝道教材の開発について報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、新型コロナウイルスの第5波と第6波の感染拡大により、緊急事態宣言、ならびにまん延防止等重点措置等が発令された。本課題の目的は、イデオロギー批判とコンテクスト分析の観点から、近現代日本の仏教絵本に見られるブッダのイメージが、作者のみならず、同時代の思想・価値観・通念・制度・習慣・政治・経済・学術・教育・階級・性別・芸術などとの社会的関わりによって、いかに創出され、変容したのかを明らかにすることである。 研究手法としては、主にテクスト精読に拠るが、そのためには、全国各地の資料調査によって考察対象となる仏教絵本と、関連資料を入手することが不可欠になる。しかしながら、都道府県を越境する移動行動に関して行政からの自粛要請があり、考察対象をはじめとした資料調査を断念しなければならない事態になった。このような事情から2022年に入り、所属機関を通して「補助事業期間延長承認申請書(様式F-14)」を提出し、1年間の研究期間再々延長が認められたため、引き続き研究課題を継続することにした。 前年度に引き続き、令和4年度も新型コロナウイルスの感染状況を見計らいながらの研究活動になると予想される。現在は、大正期に成立した仏教絵本におけるブッダの表現をめぐる創出と変容について研究する計画を立てている。これを遂行するための都道府県を越境する研究調査は、引き続き行政や所属機関の指示に従いながら実施し、所属学会が開催する学術大会については、その都度、情勢を見極めながら、オンラインなどで研究発表を行い、学会紀要への投稿も継続することで研究成果の社会的周知につとめたい。 また、本年度は、研究課題期間の最終年度となるため、総括として本課題の研究の趣意ならびに概要、関連する2016年から2022年までの所属学会、あるいは公開研究会で発表した研究報告と研究論文を網羅した研究報告書を作成して情報発信していく。
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Causes of Carryover |
令和3年度の予算執行は、仏教絵本をはじめとした資料調査と、研究発表を行う所属学会に参加する出張費への使用を予定していた。本研究は、仏教絵本に見られるブッダの表現を研究することが目的であるため、考察対象の仏教絵本とそれに関連する資料の収集が不可欠となる。とくに仏教絵本は、これまで仏教日曜学校、仏教系幼稚園や保育園、仏教寺院などで用いられたと推測されるが、宗教に関わる資料であることから、一般の公共図書館や資料館などで収集保存の対象にされにくい状況にある。したがって仏教絵本の収集調査は、考察作業に入る前提的なプロセスであることは言うまでもない。 しかしながら、新型コロナウイルスの第5波と第6波の感染拡大により、緊急事態宣言、ならびにまん延防止等重点措置等が発令され、都道府県を越境する移動行動に関して行政からの自粛要請があった。それに従った結果として、これまで全国で実施してきた調査が困難になっただけでなく、抽選予約制になった図書館や資料館等での資料収集もしづらくなってしまった。このような理由から研究の進捗状況が著しく停滞し、令和3年度の予算執行が進まなかった。 令和4年度は、新型コロナウイルスの感染状況を見計らいながら、前年度に行えなかった研究調査や、所属学会が開催する学術大会での研究発表、学会紀要への論文投稿、また、最終年度の研究報告書を作成するために予算を使いたいと考えている。
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Research Products
(1 results)