2017 Fiscal Year Research-status Report
説話の生成に関する研究-貴族・寺院社会における記録の作成・管理との関連を中心に-
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16K02386
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
佐藤 愛弓 天理大学, 文学部, 准教授 (50460655)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 寺院資料調査 / 説話研究 / 験者 / 平安浄土教 / 勧修寺 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、研究の進捗状況を確認し、計画の見直しを図ったが、点検の結果、予想よりも研究が早く進行できそうであることが判明したため、入力アルバイトや物品の手配を前倒しして行うこととした。 具体的に以下の調査・研究を進めた。 (1)勧修寺、東寺観智院、仁和寺塔中蔵における資料調査についてであるが、勧修寺調査においては、一通りの悉皆目録を作成し終えた。今後、さらに点検を進めて、目録の精度を上げていく必要はあるが、大きな成果といえる。また東寺観智院、仁和寺塔中蔵についても予定どおり調査を進行させることができた。なお、仁和寺塔中蔵については、目録作成作業を進める過程で、重要資料を発見することができた。この資料は、旧心蓮院聖教の性格を考える上で、きわめて重要な資料であるため、通常調査とは別にこれを抜き出して分析を行い、今後、研究を進めていくこととする。 (2)具体的な説話を挙げて、その環境との関係を分析することについては、その成果を論文「験者の肖像ー余慶とその弟子たちー」にまとめた。平安時代に活躍した天台僧余慶は山門、寺門の分裂の起点となった人物であり、寺院社会の変容を考える上で重視される僧侶であるが、本稿においては、説話や貴族日記、『天台座主記』などの記録などから、その活動の性格を明らかにした。その結果、これまで験者としての側面だけが強調されがちであった余慶とその弟子には、そのような側面の他に、貴人の往生に立ち会い、葬送を行う側面や、内裏や貴族の私邸において論義を行う側面など、多様な活動があったことが判明した。このことは、当時の往生観を、源信などの平安浄土教と、験者の念仏の二種に大別してきた従来の研究史を大きく書き換えることとなる。 (3)(1)と(2)を組み合わせて、文庫を基盤とした説話生成のモデルを作り上げることについても、それぞれの進行とともに結実しつつあるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず(1)において勧修寺聖教の悉皆目録が完成した点は大きく評価してよいと思われる。今後点検を重ねて精度を上げていかなければならないが、これにより勧修寺聖教の全貌を知ることができるようになり、(3)の文庫の分析と、そこにおける説話の位相を総合的に考える研究の前提となる重要な成果であるといえる。 また(2)についても、本年度執筆した論文「験者の肖像ー余慶とその弟子たちー」においては、仏教説話や、寺院の記録である『天台座主記』からわかる余慶像を分析するとともに、『小右記』『御堂関白記』などの貴族日記などにみられる余慶の姿について検討し、寺院側の資料と、貴族社会における資料との対照と統合をはかった。寺院社会と貴族社会の両方に足跡を残す余慶を例にとることによって、それぞれの社会における記述の方向性を分析することができ、差違がある点と連動している点の双方を発見することができた。二つの場は、記録の方式などに差違を持ちながらも、連動する一つの社会を共有していることが明らかとなった。 (1)(2)のそれぞれで、着実な成果があがっているため、これらを統合する(3)の達成への道筋がみえてきたといえる。 よって、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、本研究の折り返し地点にあたるため、これまでの研究の進行について、今一度点検を行い、効率的な調査・研究を図ることとする。その上で以下の3点を実施していく。 (1)勧修寺、東寺観智院、仁和寺塔中蔵における資料調査を進めつつ、その資料群の構造を分析する。とくに勧修寺については、前年度に完成させた勧修寺聖教悉皆目録を点検しつつ、補充調査を行う。またこの目録をもとにして、資料群としての性格を明らかにして、他の文庫と比較しつつその特徴やこれを生み出した時代背景について考察する。 (2)については、検討対象として選んだ説話について分析しつつ、他の資料との関係を調査し、考察を進める。 (3)については、(1)(2)での、調査成果の体系化に力点を置き、実証的な研究成果をあげていくこととする。 なお、平成29年度は、調査の進行が早く、予想よりも研究の進展があったために、前倒しで研究を進めたが、今後はこれまでの発見や進展を、より確実な研究成果とすべく、その位置づけや意義づけについて、さらに研究を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、予定よりも調査の進行が早く、その成果を迅速にデータに反映させるための入力アルバイトを手配し、20万円の前倒し申請を行ったが、実際の入力の進行が予想に反して遅くなり、入力が年度をまたがってしまったため、繰り越しが生じた。
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