2016 Fiscal Year Research-status Report
戦後児童文学にみる「文学」の体系化と規範化――少年少女向け叢書を中心に
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16K02398
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 千葉大学, 教育学部, 教授 (40154108)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 児童文学 / 少年少女 / 読者 / 体系化 / 規範化 / 叢書 / 近代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、研究初年度として、まずは1950年代河出書房刊行の少年少女向け叢書の資料調査を行った。当初予定していた「日本児童文学全集」「日本少年少女名作全集」「日本少年少女文学全集」の3種の叢書のほか、「ロビン・ブックス」にも目を向けるとともに、『小学生上級版』『小学生中級版』という雑誌も少なくとも創刊されたことが判明した。この結果、当時の「児童文学」と「小説」という読者対象年齢、散文の種類の多様性、「読書」をめぐる社会的な状況が浮き彫りにされてきた。この成果については、骨子を日本児童文学学会第55回研究大会(2016年10月開催)で発表するとともに所属学部の紀要に論文としてまとめた。 また、児童文学の普及にとっては重要な媒体である国語教科書への掲載のされ方に目を向け、とくに原作が海外の絵本である場合と、近代の短編収録に際しての挿絵を含めた掲載の状況を、一般に流通している絵本の形態も視野に入れつつ、比較考察を行った。さらにいわゆる幼年童話における媒介者たる大人向け「あとがき」にも触れつつ、体系化・規範化がもたらす問題点を整理し、2016年7月にオーストリアのウィーン大学で開催された、第21回国際比較文学会ウィーン大会にて、口頭発表を行った。日本における出版形態の問題根即ち横書きと縦書きがもたらす翻訳上の問題に関して、また5社の教科書に同一テクストが採用されながら、実際には多様な享受の実態がある点など、聴衆からの反応は、あらためて、体系化と規範化を追究することの意味の大きさを裏付けるものであった。 なお、資料調査については、偕成社の叢書類にも手を付けつつあるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた叢書類の調査を進めることができた。また、発表に関しても、当初予定していた国際比較文学会における口頭発表のほか、国内の日本児童文学学会でも、口頭発表を行うことができた。さらに、後者の成果をもとに、紀要論文にまとめることもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に向けては、少し手を付け始めている偕成社の、近代文学を中心とした二種の叢書の調査を進めることにしたい。これらは、いずれも刊行開始時の予定から増大乃至は変更していることが判明しており、その意味では丁寧に各種資料所蔵館でその過程を見ていく必要がある。 また、2017年夏季開催の、国際児童文学学会トロント大会における発表申し込みが受理されたので、当初の予定通り、その大会における発表準備も進めていくこととする。 さらに、上記の計画遂行に当たっては、大阪府立中央図書館国際児童文学館における資料調査も、できれば複数回行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
予定していたよりも、ノートパソコンの購入が安かったためである。また、申請していた次年度の海外における発表が受理されたが、夏季開催の国際学会のため、渡航費に充当したいと考えたためでもある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のように、2017年度の7月末から8月初めにかけて、カナダで開催される国際児童文学学会に行き、発表を予定している。この間の渡航費が上昇することも予想されるため、次年度に使用することとしたい。
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