2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後児童文学にみる「文学」の体系化と規範化――少年少女向け叢書を中心に
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16K02398
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 千葉大学, 教育学部, 教授 (40154108)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近代文学 / 叢書 / カノン形成 / 少年少女読者 / 日本文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、研究2年目として、資料調査としては、あかね書房および偕成社から1960年代に刊行された少年少女向け叢書類を中心に行った。その結果、「少年少女日本文学選集」(あかね書房)と「少年少女現代日本文学全集」(偕成社)の間に、国語教科書掲載を念頭に置くなどいくつかの編集上の共通点が見られることが分かった。いずれも吉田精一が中心にいるなど、近代文学研究者が強く関与しており、「一人一冊」スタイルの「作家」叢書の体裁を強めていく方向が窺える。その一方、偕成社から近い時期に刊行開始された「ジュニア版 日本文学名作選」においては、途中の度重なる増巻を経つつ、長編中心の収録がされていること、夏目漱石や下村湖人などの作品重視の点では先行するあかね書房版や偕成社版と共通点も見られること、作品中心に題目設定がなされたことにより個人の興味に即した読書が喚起される点や家庭における読書を前提とした享受の実相が窺えることなどがわかった。 これらの成果については、あかね書房版と偕成社の2017年8月にカナダ・トロントのヨーク大学で開催された第23回国際児童文学学会トロント大会および2017年11月に開催された第56回日本児童文学学会研究大会(岡崎女子大学・岡崎女子短期大学)で、骨子を口頭発表した。なお、現在のところ、「ジュニア版 日本文学名作選」に近い発想で編集・出版されたポプラ社刊行の叢書の存在がわかっており、その資料調査に手を付け始めたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた叢書類の調査を進めることができた。また、発表に関しても、当初予定していた国際児童文学学会と日本児童文学学会における口頭発表を、行うことができた。さらに、それらの成果をもとに、今年度は臨時号も含めて2本の紀要論文にまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に向けては、少し手を付け始めているポプラ社の、近代文学を中心とした叢書の調査をとりあえずは進めていきたい。また偕成社からは、「ジュニア版 世界名作文学選」といういわば姉妹版の叢書が刊行されているのだが、そちらは、従来の児童書専門出版社が刊行するような作品選定とはかなり趣旨が異なるように見受けられる。それも合わせて視野に入れるようにすることで、1960年代における「教養形成」の文学的な内実が窺えるのではないかと考えている。 また、2018年8月には、中国の湖南省長沙で、アジア児童文学大会が開催される予定であり、そこにおける発表を希望し、準備を進めている。 さらに、上記の計画遂行に当たっては、大阪府立中央図書館国際児童文学館における資料調査も、できれば複数回行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
(理由) カナダ・トロントへの出張費の総額が明確になるのが少し遅れたため、大阪への資料調査が1回となった。また、トロント大会の折に、隔年開催の国際児童文学学会の次回が2019年度にスウェーデンのストックホルムで開催されることが分かり、今後の旅費が研究申請時よりもかかることが予想されるようになったためである。 (使用計画) 2019年度の国際児童文学学会の開催予定が8月の旅行シーズンであり、また、同年には3年に一度の国際比較文学会の大会も7月に開催予定である。いずれの学会にも参加することを予定しており、これらの旅費に充当していきたい。
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