2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02410
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
新城 郁夫 琉球大学, 法文学部, 教授 (10284944)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 沖縄文学 / 世界史 / 難民 / アメリカ / 琉球人 / 上間正雄 / ペリー来航 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実績成果として、論文「想起と忘却のなかのアメリカ-上間正雄『ペルリの船』論」(「琉球アジア文化論集」第四号、、二〇一八年三月)の発表をあげることができる。この論文の刊行は、当課題研究の中間報告的意味を持つと同時に、沖縄文学成立過程を歴史的社会的文脈の特異性において検証していく考察の方向性を明確に打ち出している点で、当課題研究成果の中核を担うものと言える。 特筆される点として、これまでの先行研究究で閑却されてきた近代沖縄文学におけるアメリカ覇権をめぐる想起の政治性を論証したことを挙げることができる。この論考において、1900前後の沖縄をめぐる文化史文脈において重視されてこなかった、アメリカ覇権の内面化による「琉球人」という主体画定の動きを、想起と忘却をめぐる文学表象の力学を明証できた点が特筆される成果と言える。 関連して、論文「『エレニの旅』―沖縄が召還する難民の世界史」(『現代思想 特集・現代を生きるための映像ガイド51』二〇一八年3月臨時増刊号)の発表も今年度の研究成果と言える。この論文では、沖縄をめぐる移民・難民の生の表象史を、ギリシャ近現代史を難民という視点から描くアンゲロプロス監督の映画『エレニの旅』との「対位法的読解」(E・サイード)において論じた。ここで沖縄文学成立において、沖縄以外の地域や歴史的経験の参照と比較が大きな役割をはたしていることを示し得た点に成果が見られる。 このほか、今年度は、沖縄県立図書館、国会図書館等の使節での関連資料調査収集を積極的に行い成果を得た。この成果を次年度に活用していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では前年度に引き続き収集した資料に基づき、沖縄内外での沖縄文学成立に関する考察を論文化していくことを目的としたが、論文2本の発表という成果を鑑みれば、当初の目的以上の達成があったといえる。 しかし、当初の目標としていた、日本本土における沖縄文学の展開に関する表象史的考察は十分な成果をあげられていない。この点を差し引いて、全体として、「おおむね順調に進展している」という自己評価とする。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では前年度に引き続き収集した資料に基づき、沖縄内外での沖縄文学成立に関する研究を進める。今後の研究の推進方法として主軸となるのは、これまで通り、沖縄文学成立に関する文献資料の調査収集と、この文献を読み込んで行く作業を同時並行的に進めていく研究実践である。 具体的に言えば、山城正忠や世禮國男あるいは伊波不普猷といった沖縄文学成立過程に関わる重要な表現者の文学思想的考察について、急ぎ文献資料調査収集にあたり、同時に、広津和郎や折口信夫といった、日本本土を活躍の場とした表現者の沖縄文学に関する資料の調査収集をおこなう。 上記の基礎的作業を踏まえて論文を公刊し、当該研究成果を広く公開していく計画である。
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Causes of Carryover |
(理由) 当初予定していた文献資料調査旅行が、大学校務との兼ね合いで無理となり、出張を断念せざるをえにくなったため。繰り越しの金額が生じ、次年度使用額として算定されている。(使用計画)当年度は課題研究の3年目の仕上げの年であり、文献資料調査出張が数回必要となる。昨年の反省を活かし、研究スケジュールを組む際、次年度使用額を早い時期に活用するため、急ぎ文献資料調査出張を実行する計画である。
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