2019 Fiscal Year Research-status Report
戦後占領期のカストリ雑誌と同時代の出版文化に関する総合的研究
Project/Area Number |
16K02422
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
石川 巧 立教大学, 文学部, 教授 (60253176)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 占領期 / 出版 / 文学 / カストリ雑誌 / 雑誌 / 人文知 / 戦争 / 運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
出版文化研究としては、戦後占領期に函館で発行された『サンライズ』(函館新聞社)を全号揃えることができ、同誌の復刻版出版に向けて準備を進めた。同誌については解題、総目次を付したうえで二〇二〇年七月に三人社から刊行予定である。もうひとつ、出版文化に関しては、日本の敗戦後も中国山西省に留まり続けた残留日本人のコミュニティで発行されていた雑誌『晋風』を発掘し、こちらも復刻版出版に向けての準備を行った。同誌については二〇二〇年八月に解題を付して金沢文圃閣から刊行される予定である。その他、本科学研究費との関連で発表した論文として、「師/弟小説としての「微笑」―栖方の微笑はなぜ「美しい」のか―」(『敍説Ⅲ』一七号、二〇二〇年一月)と「江戸川乱歩「人間椅子」はどのように書かれているか」(『立教大学日本文学』第一二三、二〇二〇年一月)がある。前者は横光利一の晩年の短篇小説、後者は江戸川乱歩の代表作を分析したものだが、いずれも本テーマに関する研究活動のなかで着想を得たものである。口頭での研究発表としては「〈闘争〉と〈運動〉の狭間で―「山谷 やられたらやりかえせ」を読む」(共同研究プロジェクト「東アジア冷戦下の日本における社会運動と文化生産」(二〇一九年七月二七日、国際日本文化研究センター)、学会基調講演「戦時下における〈人文知〉―夢野久作が描いた〈東亜〉とその未来―」(台湾日本語文学会、二〇一九年一二月一四日、台湾東呉大学)を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は二〇二〇年度が最終年度になるが、現在、その集大成として『カストリ雑誌総攬』(勉誠出版)と『戦後占領期地方総合文芸雑誌事典』(金沢文圃閣)の執筆、編集作業を継続しており、二〇二〇年秋にはそれぞれ入稿となる予定である。二つの著作は、いずれも戦後占領期の出版文化に関しての実証的かつ網羅的な研究であり、特に同時期の雑誌出版に関して、新たな資料が数多く発見されている。また、本研究では固有名詞での索引を作成するため、そこから新たな研究を展開させることが可能であると考えている。戦後占領期は図書館の納本制度も定着しておらず、プランゲ文庫に依存した研究が主流だったが、カストリ雑誌や地方雑誌に着目して歴史のなかに埋もれてしまった雑誌に焦点をあてることで、雑誌の内容に関する研究はもちろんのこと、そうした貴重な雑誌資料を収集・保存・公開するための方法についても研究が進むことになるだろう。また、研究の最終年度であるということは、次の研究に対する準備段階にあることをも意味している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究における五年間の成果は上記の著作でひと区切りとなるが、次のステップでは、たとえば国際日本文化研究センターの共同研究プロジェクト「東アジア冷戦下の日本における社会運動と文化生産」のようなかたちで、出版文化と戦後の文化運動の接続をテーマにしたいと考えている。戦後占領期の問題はそれだけで終わるのではなく、日本の戦後文化や文化運動そのものに大きな影を投げかけている。本研究では、関心を寄せる他の研究者とともにその問題に取り組みたい。また、二〇一九年度は台湾日本語文学会の基調講演を行うなど、海外の日本文学研究者とも交流を深めている。また、二〇一九年四月に北京外国語大学で集中講義を行った際、同校の秦剛教授と親しく交流させていただき、中国国家図書館の日本語資料に関する調査も行っている。こうした交流をさらに蓄積し、戦時中の中国、韓国、台湾における日本語雑誌の出版に関しても調査を進めていきたいと考えている。中国に渡航して一定期間に亙る資料調査を実施できるかどうか、現段階では不透明な部分が多々あるが、研究計画としては、二〇二〇年の秋以降に一ヶ月程度の現地図書館調査を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナウィルス感染拡大にともなう自粛要請を受け、二〇二〇年三月に予定していた研究会および資料調査のための出張が中止となったため、六〇九二二円が未執行に終わりました。同出張に関してはコロナ問題が収束したのち、二〇二〇年度内に実行する予定です。
|
Research Products
(5 results)